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第47話

「何か分かったか?」 「うん……これはちょっと面白いことになりそうだよ。フォークナー巡査部長、どこまで行っちゃったんだろうね。全然来ないけど……」 「この辺りは特に駐車場所に困るから、もしかすると、かなり遠くまで行ったのかもしれないな」  リチャードはがショウウィンドウの方へ視線をやると、スクエアを斜めに横切って大股に歩いてくるハワードが見えた。 「やっと来た」  リチャードがハワードのためにドアを開けてやると、せかせかとした足取りで彼が入ってきた。 「まったく、参ったよ。やっと駐車場所見つけたけど、ここからかなり離れたところしか空いてなくてさ。こんなことなら、車使うんじゃなかった」 「この辺りは普段からこうだから、仕方ないさ。それよりも、レイが面白いもの見せてくれるらしいぞ」 「面白いもの?」 「チッペンデールの文机を調べて何が分かったのか、これから披露してくれるそうだ」  リチャードはレイを期待の目で見つめる。レイはいつも新鮮な驚きを与えてくれる。きっとこの机を調べて、まだ誰も気付いていない新事実を見つけたのに違いない、とリチャードには分かっていた。 「この文机は、ベイカーさんの見立て通りだよ。チッペンデール社製でもなければ、もちろんトーマス・チッペンデール作でもない。ガートフィールド家でも説明したけど、トーマス・チッペンデールが作った家具なんて、そう簡単には見つからないんだ。この文机も違う。これはただの無名の家具職人が作った、チッペンデールスタイルの文机だよ」 「レイモンドくん、自信満々だけど、ど素人の俺には全然分からないんだよね。どこがどう違うのか説明してくれるかな?」  ハワードがメモを取りながら尋ねる。レイは得意満面な顔で微笑むと、机の一部分を指さして二人の意識を向けた。 「ここ見て」  レイが指し示したのは、文机の両サイドにあるシノワズリデザインの嵌め込み細工の部分だった。 「全体的にぱっと見ると、なかなか良く出来てるんだけど、こういう細かい細工の部分に雑なところがあるんだ。もしこれがチッペンデール社製の家具だったなら、絶対にあり得ない。工房では厳しく品質管理が行われていたからね。チッペンデールの名に相応しい家具しか、その名前で売ることを許されなかったんだ」  二人はレイの説明を聞きながら、嵌め込み細工の部分をよく見る。確かにところどころ稚拙な細工の部分があった。だが一見しただけでは、素人目にはまったく分からない程度のもので、さすがレイだ、とリチャードは舌を巻いていた。 「それと、この文机にはチッペンデール社製ではない、という決定的な証拠があるんだ」  レイは自信ありげな表情で断言する。こういう時の彼は絶対に間違いない裏付けを握っている。一体その証拠とは何なのか、リチャードは気になった。 「チッペンデールはマホガニー材を使うのを好んでいたんだ。重厚なマホガニーの素材と、チッペンデールの繊細なデザインが組み合わさってこそ生み出される絶妙のハーモニー。それがチッペンデールの人気の秘密でもあったんだ。だけど、この文机はローズウッドを使ってる。ローズウッドは嵌め込み細工の材料としては古くから使われていたけど、家具として使われるようになったのは十九世紀以降だから、十八世紀に作られていたチッペンデールとは時代的にかけ離れ過ぎてる」 「……と言うことは」 「ベイカーさんの見立ては正しかった。これはチッペンデールスタイルで作られた家具であって、当初の彼の買い取り金額は超えないよ」  レイは断言すると、リチャードに「どう? 僕の説明は分かりやすかった?」と尋ねる。 「もちろんだよ。素人の俺たちでもよく理解できた。ありがとう」 「はあー、レイモンドくん本当にすごいね。俺なんて言われなければ全然分からなかったし、言われても半分くらいしか分かってないんだけど……あ、でもこの文机がチッペンデールスタイルであって、ベイカー元教官の値付けが間違ってなかった、っていうところは理解出来たよ」  ハワードはメモを見て頭を捻りながら、レイに向って言う。 「それだけ分かって頂ければ充分です」  レイは素っ気なくハワードに言った後「もっと面白いものが見られるかもしれないよ?」と言葉を続ける。その顔には悪戯っ子めいた笑みが浮かべられていた。こういう顔の時のレイは何かしら企んでいることが多い、と経験からリチャードは知っていた。 ――一体、何が始まるんだ? 「二人共ここ見て」  レイは文机の上部分、二段の棚が作り付けてあるところを指さした。リチャードとハワードが覗き込むと、もう少し近いところを指で指し示してくれる。 「底板のところ、ピンがあるの見える?」  二段の棚のうち、一段目の棚の下部分と二段目の棚の間にある空間の奥の部分をよく見ると、棚の底板に鈍く光るピンのような物が出っ張っているのが目に入る。よく見ないとほんの頭の部分しか出ていないので、気付かなければ絶対に見逃してしまうだろう。大体そんな棚板の底部分の奥なんて、普通に机を使っていたら見るような場所ではない。余程意識して探さない限り、見つけるのは無理だった。 「それと、ここ」  レイは更に、文机の頭頂部分にある中国風の塔の飾りの裏側の一部分を指さす。その部分にも、小さなピンの頭が出ていた。  レイは手探りで棚板の底部分と塔の裏側のピン、両方を探し当てると、ぐいっと一度に両手の指に力を入れる。  するとパカン、と板の外れる音がして、棚の下部にある右側の飾りパネルが開いた。 「Hey, presto!(ヘイ、プレスト!)」  レイは手品師がマジックに成功した時のように、両手をパネルの前に広げた後、かしこまった様子で片手を胸元に押し当てて、恭しくお辞儀をしてみせる。

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