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第52話

19.  翌朝、リチャードが携帯のアラームで目を覚まし、シャワーを浴びてベッドルームに戻ると、レイはすでに起きていた。いつもであれば、彼はまだ寝ている時間帯だ。リチャードが泊った翌日であっても、レイは基本的に自分の生活ペースを変えない。大抵眠り続けている彼を名残惜しそうに見つめて、リチャードは出勤するのが常だった。  それが今朝はすでに目を覚ましてベッドに半身を起こし、携帯をチェックしている。  やはり、昨晩のリチャードの様子があまりにもいつもとは違っていたので、レイは心配しているようだった。  リチャードは「おはよう」と声をかけ、用意しておいた服に着替える。タイを締めていると、レイがベッドから抜け出してきた。 「僕が締めてあげる」  レイはリチャードのネクタイを結び始める。彼の白い長い指が器用に動いて、手早くタイを綺麗に締め終えた。 「うん、いいんじゃないかな」  レイは締めたタイを軽くぽん、と叩いてにっこりと笑った。 「レイ……」 「なに?」 「……もう、そんなに心配しなくても俺は平気だから」  だがそんな言葉とは裏腹に、明らかにいつもよりも元気がない。リチャードが浮かべる笑顔も、どことなく弱々しく見えた。 「僕の前で無理はしないで」  レイは真っ直ぐにリチャードの蒼い瞳を見つめると、きっぱりと力強い口調でそう言う。その言葉を聞いて、リチャードは昨夜からずっと張り詰めていた気持ちが、ふっと抜けたような気がした。 「僕はいつでもリチャードの味方だし、リチャードが側にいて欲しいって思うなら、ずっと側にいるし、もしも僕の力が必要なのであれば、なんでもする。今までと違うリチャードを知ったとしても、僕は絶対に裏切らない。だから無理に自分を偽らないでよ」  リチャードは何も答えずに、無言のまま俯く。レイはそんな彼の両手を取ると、落ち込んだ子供に言い聞かせるように、ゆっくりと思いやりの籠もった言葉を紡ぐ。 「……リチャードは、いつも僕が苦しい時に側にいて支えてくれたから、今度は僕がリチャードの力になりたいんだ。僕はすごく弱いし臆病だしリチャードがいなかったら、一人で乗り越えられない壁が今までたくさんあった。これからだって絶対にリチャードに助けて貰うのは間違いないよ。だから、こういう時ぐらい頼ってよ。それとも、僕じゃ頼りない?」 「……そんなことはないよ。昨日の夜はレイが側にいてくれたお陰で、随分気持ちも落ち着いたんだ。だけど、まだ自分の中での整理がついてなくて。今までずっと信じていたものが、まるで違ったものだったって分かったら、誰だって冷静ではいられないだろう? 俺も今、ちょうどそんな気持ちなんだ。しばらくしたら、いつもと同じに戻るから。もう少しだけ、時間が必要なだけなんだ」 「分かってる。リチャードは、そんな簡単に駄目になっちゃうような人じゃない、って僕にはちゃんと分かってるから」  レイは、リチャードをぎゅっとハグした。誰よりも優しく自分を包んでくれる存在、今やレイはリチャードにとって何者にも代えがたい大切な人物だった。果たして彼なしで、この真実とまともに向き合えただろうか? とリチャードは自身に問いかける。 「……僕たち一緒に住めたら良いのにね」  レイはリチャードの胸に顔を埋めたまま、そう呟く。 「……そんなことしたら、俺たち付き合ってるってバレるぞ?」 「そうだよね……冗談だよ。そんなの出来っこないし」  リチャードの言葉にレイは冗談めいた口調で答えると、すっと体を離して「コーヒー淹れるよ」とキッチンに降りていった。その後ろ姿を、リチャードはじっと見つめていた。

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