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第57話

21.  レディ・ガートフィールドはヴェロニクに付き添われて、制服警官の警察車輌でMET庁舎へ向うために部屋を出た。その脇で、ポールは連絡すべき弁護士が分からない、と言って兄のロード・ウィンボーンに電話で泣きついている。会話の様子だと、どうやら不出来な弟の代わりに、兄が然るべき対処をすると約束したようだった。そこまでの成り行きを見守ると、リチャードたちはガートフィールド家を辞す。その後ろで、制服警官に連れて行かれるレディ・ガートフィールドを、広間のドアから怖々覗き見していたガートフィールド家の人間たちは、一体何がどうなったのだろうか? と驚いた顔で呆然としていた。  レイは外へ出ると、警察車輌に乗り込む寸前のヴェロニクの元に目立たないように近づき、何か二、三言、彼女と言葉を交わすと納得したように頷く。そして、リチャードと共にハワードの車に乗り込むと、すぐに「グランの意味が分かったよ」と少し興奮した様子で口を開いた。 「本当か? グランは一体何だったんだ?」  リチャードは助手席から身を乗り出して、後部座席のレイに尋ねる。  ベイカーが意識を一瞬だけ取り戻した時に口にした『グラン』という言葉が一体何を、いや誰を指していたのか? それだけが、この事件で最後に唯一残った謎だった。  ハワードも、これは気になっていたらしく「聞かせてくれよ」と期待に満ちた顔で、後ろを振り返る。 「あの言葉は、レディ・ガートフィールドを指した言葉だったんだ」 「え? でも一体グランがどうしてレディ・ガートフィールドを指すんだ?」  ハワードが全然意味が分からないと、レイに尋ねる。レイは世界中で、自分だけが謎の答えを知っているのだとばかりに自慢気な態度で、彼の問いに答える。 「あの部屋に入った時、二人共何かに気付かなかった?」  リチャードとハワードはお互い、何か気付いたか? という表情で顔を見合わせる。  そしてリチャードはふと、レイが部屋に入った途端に何かの匂いを嗅いでいたことを思い出した。 「そうだ……何かの匂いがしたんだ……あれは何の匂いだった?」  彼の記憶の中に、どこか懐かしい粉っぽい人工的な香りが残っていた。あれを嗅いだのは一体いつ、どこでだった? 「それだよ。あれはタルカム・パウダーの香りだったんだ」 「そうか、どこかで嗅いだことがある匂いだと思ったんだ」  リチャードがそう言うと、レイはやっと気付いてくれたね、という表情で頷く。 「さっきヴェロニクさんに確認したら、レディ・ガートフィールドは昔からお気に入りのタルカム・パウダーがあって、それを欠かさず毎日使ってるって言ってた。あの部屋に入った時の香りはそれだったんだ」 「レイモンドくん、タルカム・パウダーとグランの繋がりは一体何なんだ?」 「ベイカーさんが背後から殴られた時、姿は見えなかったけど、レディ・ガートフィールドが使っていたタルカム・パウダーの香りがベイカーさんには分かったんだ。タルカム・パウダーって、お年を召した女性がよく使うだろう? 若い人が今時使うなんて少なくとも、僕は聞いたことがない。これはベイカーさんが意識を取り戻したら聞いて欲しいんだけど、多分、彼のおばあさんがタルカム・パウダーを使っていたんじゃないかな。それで記憶の中にあったグランマ(Grand Mother/グランドマザー・祖母)の香り、って一瞬意識を取り戻した時に思い付いた。それでリチャードの問いかけに『グラン』って口にしたんだと思う」 「……そうだったのか」  リチャードは最後に一つ残った謎の言葉もレディ・ガートフィールドを指していた、と分かってほっとするのと同時に、ここでも遺憾なく発揮されたレイの能力の高さに感謝していた。

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