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un- Ⅱ

「ん、っ、はぁ、・・・な、しずか」 「なに、侑史くんシャツ捲って、自分で」 「え・・・」 きっとその瞬間、柴田は何かを逢坂に問おうとしたのだろうけれど、逢坂はそれに表面的には答えながら、聞いていないふりをしてそう言った。そしてそうは言ったが、きっと柴田はそうはしないだろうと分かっていたので、柴田がそれに拒否的なことを言う前に、パンツの中に入っていたシャツを引っ張り出して、それを強引に柴田の喉元辺りまで引き上げると、逢坂は言った。 「もって、自分で」 「・・・ん、な、しず・・・」 また柴田は何か言おうとしたが、結局何も言わないで、そのまま口を閉じた。これは柴田が拒否すれば終わる遊びなのに、本当に終わるのかともうひとりの逢坂が頭の中で言う。柴田はそろそろと手を動かして、シャツの端を握った。逢坂の捲り上げたはずのシャツは、半分くらいもう重力に負けてしまっていたが、柴田のできるのはおそらくそれが限界だった。 「えろいよ、侑史くん」 「・・・ん、だよ、これ」 「えろい、そうやって自分で持ってると、おねだりしてるみたいに見えるから」 「・・・はぁ・・・―――っん」 柴田の痩せた腰を引き寄せて、そのままピンク色に尖がった胸の突起を口に含む。びくりと柴田の体が跳ねて、逢坂の上でどうにか後退しようとするが、腰をがっちりホールドされているので柴田は動けない。柴田の平たい男の胸を弄る時、逢坂は如何して自分には口がひとつしかないのだろうと思う。もうひとつあれば、逆サイドで逢坂の愛撫を待って震えているもうひとつのピンク色を慰めることができるのに。 「あっ、や・・・んっつ」 「侑史くん、ちゃんと持ってて、舐めて欲しいんだったら」 「んっ、や、・・・だ」 「いい癖に」 言いながら逢坂は、唾液で濡れた柴田の突起を指でぴんと弾いた。びくびくと仰け反った柴田の体が震えて、柴田の喉から掠れた音が零れた。 「・・・―――ぁ」 「あ、軽くイっちゃった?侑史くんほんと乳首弱いよね」 「はぁ・・・っん、し、ず」 その先の言葉を、柴田はどうして口にしないのだろう。今にも涙が零れ落ちそうなくらい潤んだ目を見上げて、逢坂は柴田の腰を引き寄せたままもう一度キスをした。ちゃんと柴田が呼吸ができるくらいのペースで、優しく唇を食むと柴田はその目を嘘みたいに閉じる。そんな風に何も見えない状態にしたら、次に何が来るか分からなくて不安にならないのだろうか。逢坂はそうやって柴田のことを心配しながら、柴田を不安に追いやっている正体が自分なのだという自覚もどこかである。逢坂はキスの間に、柴田が履いていたパンツのジッパーを開けてやった。下着の中で窮屈そうに体積を増した性器が、先走りを零して染みを作っている。 (ローション、寝室だなぁ、鞄にも入ってるけど) 下着の上から緩々と撫でてやると、柴田は逢坂の肩に爪を立てて、俯いたまま唇を噛んでその柔らかい刺激に耐えている。唇から我慢できない甘い声が聞こえるたびに、それは確実に逢坂自身にも響いて痛いほどだった。柴田は本人は無自覚だが、たぶん感じやすいタイプの人間で、それでいて自分で自我が保っていられないのが耐えられないので、快楽の波が来るたびに、はやく終わって欲しくて続きをすぐ促す困った癖がある。逢坂は初めの頃は柴田が欲しがっているので、そのまま与え続けていたが、それが柴田が自我を保つための方法になっているのだと気付いてから、あまり柴田の言うようにはしてやらなかった。直接的ですぐに過ぎる刺激よりも、こういう緩い刺激を長く与えられるほうが、柴田の感覚を鈍らせることができるのだと、逢坂はもう知っている。 「し、ず、や、だ・・・ぁ、そ、れっ」 「んー、ローション傍にないから考えてるんだよ、侑史くんの体が傷つかない方法」 「や、めっ、・・・変に、なる、んんっ、だろぉ」 ぽろりと柴田の目尻から生理的な涙が降ってきて、逢坂の頬に落ちた。顔を真っ赤にしてそう抗議する柴田に向かって、逢坂はにこりと笑った。 (なっちゃえばいいよ、変に) (そんで俺におかしくなってるところいっぱいみせて) (俺にだけはみせて、侑史くんのぜんぶ) 思っていても、逢坂はそれを口には出さなかった。ローションがないことは現実的な困りごとだったが、それがないとふたりの間でセックスは成り立たなくなるから、重要な困りごとでもあった。逢坂は茶化して言いながら、それをわりと真剣に考えていた。一番いいのはたぶん、このまま柴田を寝室まで連れていけば良かった。寝室にはローションもゴムも用意されているのだから。だけど、目の前で緩い刺激に耐えながら、耐えられていない柴田の様子をもっとこのまま見ていたかった。柴田をこのまま寝室まで連れて行ったら、なんとなく勿体ない気がする。柴田はきっとその間に正気を取り戻す方法を探るに決まっていたし、今余計なことを考える間を与えたくはなかった。考えながら左手を口に突っ込み、取り敢えず唾液で濡らしてみる。 「しず、し、ずっ」 「うん、俺ここにいるから、大丈夫、侑史くん」 幾分か優しく言いながら柴田の背中に手を回して、下着の中に指先から侵入させる。何度もセックスをしているから、そこは随分解れやすくはなっていたが、柴田のその日の体調によっては、そこを広げるのが酷く難しい日があるのも知っていた。下着の前の膨らみを撫でてやりながら、逢坂は震える柴田の首筋に軽くキスをして、濡らした指を孔の中に滑り込ませた。 「あっ・・・」 柴田がそれに初めて気づいたみたいに、短い息を零して、体を固くする。それをほぐしてやるみたいに、逢坂はそこではじめて下着の中に手を入れて、体積の増えたそれに直接触れてやった。すると分かりやすく柴田のふとももが痙攣するみたいに震えて、体からはふっと力が抜ける。その瞬間にまた指を奥に進める。水分の足りない孔の中で指を動かすたびに僅かな水音がする。 「あっ、あっ・・・しず、んん」 「まだイっちゃだめだよ、俺が挿れるまで我慢して」 「や、や、むり・・・っ」 首を振って柴田は、短く息を漏らす。それを見ながら逢坂は進めていた指をきゅっと抜く。するとびくびくとほとんど触れているだけで動かしていない柴田自身が震えて、先走りがとろとろと溢れてきてしまう。濡らすならむしろこっちのほうが良いかと、逢坂は右手でそれを器用に集めた。そして今度は右の指で孔への侵入を試みる。水分が足りない割に、周りの皮膚は柔らかい。 「侑史くん、浅いとこ好きだよね」 「えっ、しら、あっ、な・・・」 「知らないの?浅いとこ、ホラこんな風に出し入れされるとさ」 首を振る柴田の孔に、そのまま右の指を増やして侵入させる。そして奥まで進まないうちにまたそれを抜いてやると、柴田の体は面白い程ひくついて、その刺激を良く知っているようだった。

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