33 / 36

un- Ⅳ

「しず、待て・・・って、や、だ」 「なんで?俺まだイってないよ、侑史くん」 「・・・や、だ、イった、ばっか、だし・・・」 「それがいいんじゃん、侑史くんがわけわかんなくなるとこ、見せて」 「・・・や、」 何か言いたそうにした柴田の腰を引きつけて、また深く突き刺すと、柴田はその口を閉じた。閉じざるを得なかった。一度引いた快楽の波に、そうやって逢坂によって引き戻されていく。逢坂はその柴田が好きで、敢えて自分は我慢したり、柴田が果てる方法を考えている。 「あっ、やっ、ああっ、も、む、り・・・っつ」 「むり、じゃない、でしょ」 「あっ、や、めっ・・・んん」 「かわ、いい、すき・・・っ」 「しず、あっ・・・はぁ、ん」 「すき、ゆう、しくん、っ、すき」 好きだと言って笑うと、柴田は途端に大人しくなって、嫌だの無理だの言わなくなるのを逢坂は知っていた。生理的に濡れた目を逢坂に向けたまま、柴田は唇を半開きにして、酸素を取り入れながら、決して好きだの愛しているだのは言わないが、それに応えるみたいに逢坂の名前を呼ぶことを、逢坂は知っている。もしかしたら柴田が無意識にしているかもしれないそのことを、逢坂は知っている。 「あ、し、ずっ・・・んん、っまたっ・・・」 「ん、いいよ、俺も、イきそ」 低い声で呟いて、柴田の後頭部を包むように撫でると、柴田はどこにそんな元気があったのか分からないが、その時自棄に俊敏に動いて、逢坂の唇にキスをした。 終わった後、柴田は不機嫌そうな表情をして、家具を汚さないようにと逢坂が持ってきたバスタオルの上で寝転がっていた。 「侑史くん、もうすぐお風呂沸くからね」 「・・・おー。ってか風呂いいって、シャワーで」 「だめー、今日は俺がちゃんと洗ったげるから、一緒にお風呂はいろ」 寝ころんだままの柴田にキスをしようとすると、手で顔をホールドされて逢坂は動けなくなる。柴田は寝ころんだまま、眉間に皺を寄せて、逢坂のことをどこか恨めしそうに見ている。さっきからずっとこの顔である。拒まなかったのは柴田なのに、悪いことは全部自分に押し付けるのだからなあと考えながら、逢坂は柴田の手のひらをべろりと舐めた。柴田は慌てて手を引っ込める。 「洗うのは良いです、遠慮します」 「そんなこといわずにさーぁ、俺が中まで綺麗にしてあげるって」 「ってか、お前が中に出さなきゃこんなことには・・・」 「侑史くんが急にキスするからでしょ?俺は悪くない」 「うるせー、普段何したってイかねぇ癖に、遅漏!病院行け!」 「ひどい!遅漏じゃないし!侑史くんが早いだけだよ!」 「う、うるせぇ、俺は普通だ!」 何か思い当たる節でもあるのか、顔を真っ赤にして怒る柴田は、がばっと体を起こした。それを見ながら逢坂はそんなに急に動いたら、と思ったけれど、やはりそれが当たったのか、中のものがどろりと動いた感触で、気持ち悪くなった柴田はまたゆっくり元の体制に戻る。 「ほらぁ、自分で動けないんだから、俺に任せとけばいいんだよ」 「だから・・・誰のせいだと思って」 「侑史くんが俺のこと煽ったのが悪いんじゃん」 そう言えば何故、柴田はそれを許したのだろう。逢坂は寝転がった柴田の頬を突いて、表面的には笑いながら、内側では割と真剣にそれを考えていた。普通の状態の柴田なら、今日みたいな計画性のないセックスは嫌がるはずだ。外は段々暗くなってきているけれど、それを踏まえてもまだ明るいことも、柴田が逢坂を拒否する理由にはなる。柴田は何度か何か言いかけていて、逢坂はことごとくそれを聞かないようにしたけれど、それでもきっと本当に伝えたいことならば、柴田は無理にでもそれを伝えるだろう、簡単には諦めたりしないはずだ。柴田はそういう人だった。少なくとも逢坂の知っている柴田はそういう人だった。逢坂が考えながら黙っていると、柴田はふっと眉間の皺を消して、傍にいる逢坂のことを見上げた。 「ねぇ、なんで、させてくれたの、侑史くんもそう言う気分だった?」 「・・・いや、べつに、まったく」 「じゃあなんで、ますます」 はははと逢坂が笑う声が、徐々に侵入してくる薄闇に溶けていく。柴田はふっと短く息を吐いて、逢坂を見ている視線を徐々にずらした。 「・・・まぁ、たまには、お前を甘やかしてやるのも、いいかなって」 「・・・―――」 そうして柴田は小さい声で、酷く小さい声でそう言った。 fin.

ともだちにシェアしよう!