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第三章 傍にいたい
その日は雨だったが、歓楽街は相変わらずの賑わいだった。
そんな中、傘もささずに慎也はコートの襟を立てて街を歩いていた。
あてもなく、ふらふらと。
そこらの店に入れば、すぐにVIP扱いしてもらえる権力と財力を持っていたが、彼はそうしなかった。
彼らが好きなものは、慎也のその背景。
自分自身が好かれているわけではないと、慎也は承知していた。
不意に背後から、パシャパシャと駆け足の音が聞こえて来た。
「お兄さん、僕と遊ばない?」
強引に腕を絡ませてきた少年は。
「お前は」
「へへ。やっと会えた」
悠は、最高の笑顔を慎也に向けた。
(一週間ほど前の、野良猫じゃないか)
「もうここで商売をするなと言っただろう」
「してないよ。今が初めて」
返事もせずに、慎也は歩き始めた。
悠も、腕をほどかないまま歩く。
雨は冷たかったが、悠の心は温かかった。
会いたくて会いたくて、仕方が無かった人とようやく会えたのだ。
にこにこと、笑顔で彼の広い歩幅に必死でついて行った。
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