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第四章・6

 慎也の申し出に、悠は舞い上がった。 (初めて名前で呼んでくれた! 一緒に旅行!? 嬉しすぎない? それ!)  人差し指一本は、きっとまた百万円なのだろう。  慎也と共に過ごせて、お金までもらえるなんて、イイこと尽くしだ! 「行く!」 「よし」  出かける用意をしろ、と短く言うと、慎也は電話を掛けた。  何か話していたようだが、悠の耳にはもう届かない。 「嬉しいな。嬉しいな、ったら、嬉しいな!」  出かける用意、とは言っても、悠の手荷物は小さなバッグ一つだけだ。  あっという間に、整ってしまった。  それを見た慎也は、口の端を上げて笑った。 「まずは旅行支度をしなくてはな」 (慎也さん、初めて笑ったぁ!)  悠はもう、天にも昇る心地で慎也と共に出かけた。  行った先は、街の中心だ。  そこで、スーツケースから服に靴、オーラルケアのトラベルセットまで全部そろえた。  支払いは、全て慎也がカードで行った。 「僕、百万円持ってるんだから、自分で買うよ」 「その金は、旅行先で使え」  銀行で日本円を外貨に換え、最後に行った先がなぜか病院だった。 「お前が妙な感染症にかかっていないか、調べる」 「かかってないよ!」  幸い悠は、性病には侵されていなかった。  痩せ傾向と栄養状態が悪い、との診断を受けてしまったが。

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