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第四章・7
パスポートを申請し、受け取るまでの約一週間、悠はふわふわと浮かれて過ごした。
行先は、聞いたことのない外国だった。
「どこに行くの?」
「南の島だ」
「やったぁ! 泳ごうね、慎也さん」
「私は、泳がない」
「ノリが悪いなぁ、もう」
それでも悠は、幸せだった。
ワクワクしていた。
そんな彼を見て、慎也は心を落ち着かせていた。
弟との決定的な決裂は、慎也の身辺を脅かすに充分な火薬をはらんでいる。
(刺客が来ないとも限らないからな)
そこで、高跳びを決めたのだ。
ほとぼりが冷めるまで、海外に潜伏する。
(時間が経てば、あいつの頭も冷えるだろう)
後は、国内に戻った時のことだが……。
「ん?」
静かになったと思ったら、悠は慎也に頭を預けて眠ってしまっていた。
無垢な、愛らしい寝顔。
「まあ、いいだろう。何も考えないで、こいつとゆっくりさせてもらおう」
そして慎也もまた、ソファにもたれて瞼を閉じた。
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