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第四章・8

 悠は、幸せな夢を見ていた。  大きな白い鳥に乗って、南の島へと飛んで行く夢だ。 「ね、慎也さん。海が見えるよ!」  眼下には、ガイドブックで見たよりも美しい、広い海が。 「泳ごうよ」 「そうだな」  悠は、慎也の顔を二度見した。  今まで、私は泳がない、なんて言ってたのに!  その途端、悠の体は海中にあった。  どこまでも清い海水。  サンゴに、可愛い熱帯魚。 「うわぁ、きれい!」  ね、慎也さん。とっても綺麗だね、と彼に弾んだ声を掛けると、長い腕でそっと捕まえられた。 「悠の方が、綺麗だ」  あ……。  慎也さんの顔が、どんどん近づいて……。   「んぁ?」  そこで、もう少しで、というところで目が覚めた。 「ああ、もうちょっとで、慎也さんとキスできたのにな」  隣を見ると、彼もまた眠っている。  その頬に、悠はそっとキスをした。  甘い夢の余韻を、唇に乗せて。

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