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第五章 幸せ
潮の香りがする。
生命の溢れる、磯の匂いではない。
清々しい、風に乗って運ばれてくる海原の香り。
潮の香りに、甘いココナッツの匂いが混じる。
まぶしい日の光。
青い青い空。
真っ白なビーチに、エメラルドグリーンの海。
「ここ、天国?」
「縁起でもないことを言うな」
悠と慎也は、目的地の南の島に到着した。
美しい自然にはそぐわない、近代的な高級ホテルでチェックインを済ませ、慎也は悠を海辺へといざなった。
そこには、数軒の水上コテージが並んでいる。
植物の葉でできた三角屋根と、高床式の造り。
「ここで寝泊まりする」
「嘘! すごい素敵!」
日陰に入ると、外はカラリとした気候ではあるものの、日差しは相当強かったのだということを実感する。
屋内にはベッドやソファ、籐で出来た椅子がしつらえられ、南国の花で飾られていた。
「あ、見て! 床がガラス張りになって……、お魚がいる!」
キャッキャとはしゃぐ悠に、慎也はこれまた苦笑いだ。
「気に入るかと思ったが、予想以上だな」
「うん。すごく気に入ったよ!」
青い空、緑の山、エメラルドグリーンの海。
それらを二人で、改めて眺めた。
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