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第五章・2

「美しいな。目の毒だ」 「どうして?」 「自分の汚れが、嫌でも浮かんでくるじゃないか」 「慎也さん、難しいこと言うね」  美しいんだから、素直に受け入れればいいのに。  悠に返事は寄こさず、慎也は話題を変えた。 「長旅で疲れただろう。バスでも使え」 「はーい」  また言葉を伸ばす、と言おうとしたが、悠は駆けて行ってしまった。  残された慎也は冷たく冷えたワインのボトルを手に、ソファに座った。  グラスに注いだ赤いワイン。 「まるで、血の色だ」  こんなことを言うと、また悠にたしなめられるだろうか。  一口含むと、芳醇な香りがいっぱいに広がった。 「美味い」  そう言ってから、慎也はふと気が付いた。 「私は、美味い、と言ったのか」  美しいものを美しいと見て、美味しいものを美味しいと思う。  こんな簡単なことを、悠に思い出させてもらった。 「不思議な子だ」  だからこそ、伴って旅をする気になったのだが。  慎也がグラスを二杯干す間に、悠はバスからあがって来た。 「バスルームに行ったら驚くよ?」 「私は簡単に驚いたりはしない」  そう言い残してバスルームに入った慎也だ。  バスタブを見て、苦笑した。 「あいつの仕業か」  そこには、花がたくさん浮かべられていたのだ。  迷わず慎也は、花を浮かべたままバスタブに入った。
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