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第五章・3
バスを終えた慎也は、これまたいたずらっぽい目をした悠に出迎えられた。
「ね、ちょっとだけ寝ようよ」
「お誘いを受けるとはな。まだ昼日中だぞ」
「セックスは夜するだけとは限らない、って誰かさんが言ってたけど?」
手を引かれて寝室へ行くと、これまた慎也は苦笑した。
真っ白い清潔なシーツに、色とりどりの花が散らされていたのだ。
「お前は花が好きなのか?」
「いいじゃん。きれいだから」
まあいい、と慎也は悠をベッドに寝かせた。
細い首筋に唇を添わせると、やんわりと押し返された。
「どうした」
「ね、慎也さん。キスして」
「……」
再び、慎也は悠の首筋に口づけする。
「ね、どうしていつも、キスはしないの? してくれないの?」
悠の目は、必死に哀願している。
慎也は、とまどった。
キスをすれば、情が生まれる。
情はいずれ、人間をがんじがらめに縛り上げる。
そんな風に、慎也は考えていた。
そこで、悠の頬に、そっとキスをした。
「あ……」
飛行機の中で、僕が慎也さんに贈ったキスと同じだ。
(これで、お相子だね)
後は大人しく、慎也の腕の中に抱かれた。
身体を熱く、火照らせていった。
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