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第六章 天国の島
南の島に着いてからも、慎也はノートパソコンを開いて仕事をしていた。
始めの3日程度だけだが。
「慎也さん、一緒に泳ごう!」
こんな悠の誘いにとうとう負けて、スイムパンツを買い海に飛び込んだ。
「海の水ってさ、思ったより塩辛いよね!」
「そうだな」
「目ぇ、開けると沁みるから。はい、ゴーグル。シュノーケルとフィンも」
そうして見る海中は、本当に美しかった。
熱帯魚の群れ、白い砂、サンゴ。
その中をぬって泳ぐ悠は、まるで小さな人魚だ。
彼が、手を伸ばす。
慎也は望まれるまま、手を握る。
二人で手を繋いで泳ぐ海は、それだけで煌めきを増したかのようだ。
『ここ、天国?』
初めてこの島を見た時に、悠がこんなことを言っていたが、まさにその通りだと慎也も感じた。
ここは、天国だ。
ずっと地獄を這い廻って来た私に、つかの間与えられた安息の地。
(死ねば、どうせ地獄行きだろうからな)
だったら、このつかの間の天国で存分に楽しもう。
そう、考えた。
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