42 / 68

第六章・6

 夕食を終え、バスタブで温まった後、二人は夜の海を眺めた。  静かな波の音。  瞬く星。  温かなそよ風。  それらを二人で共有しながら、ただ時の過ぎるのを感じていた。 「悠」 「なに?」 「珍しいな、お前が喋らないのは」 「今は、静かに心の中で話しているところ」  そう。  胸の内で、張り裂けそうな想いを鎮めているところ。 (慎也さん、好きだよ。大好き)  口を開けば、そんな言葉がとめどなくこぼれてしまうに違いないから。 「慎也さんは、何を考えているの?」 「そうだなぁ」  頭の中は、悠でいっぱいに占められてしまった。  仕事も、手につかない。  だがそれを、彼に告白するわけにはいかない。  私の棲む世界に、この子を引きずり込むわけにはいかないから。  だから、黙ってしまった。  悠も、訊かなかった。

ともだちにシェアしよう!