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第七章 愛してるのに
10日間のバカンスはあっという間に終わってしまい、慎也と悠はマンションへ帰ってきた。
「ああ! やっぱり家が一番落ち着くよね!」
「島に永住したい、なんて言ってたのにか?」
スーツケースをほどき、旅の後始末だ。
洗濯ものは器械にお任せし、悠は買い求めたおみやげを広げていた。
どれも悩み、厳選したものだ。
おみやげと言っても、渡す相手は慎也だけなのだが。
「はい、慎也さん。おみやげ!」
「私への土産だったのか」
「だって僕、他に知り合いいないもん」
慎也へのおみやげは、ミントキャンディーや木彫りの魚、エメラルドグリーンのシャツなどと、とりとめもない。
その中に、ジッポーのライターもあった。
「私は、タバコは吸わないんだが」
「あ、そうか」
カッコいいから、つい買っちゃった。
そんな悠を慰めるように、慎也はライターを受け取った。
「せっかくだから、貰っておこう」
ライターには、島のあちこちで見かけた半人半魚の神が彫り込まれていた。
「お守りになるな」
「ご利益あるよ、きっと」
慎也は、にこりと笑った。
彼の笑顔は、旅行へ行ってからずいぶん柔和になっていた。
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