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第七章・2
バスを使い、軽く食事をとり、悠はリビングで慎也に改まった口調で告げられた。
「私の旅行について来てくれると、これだけ支払う、と約束したな」
彼は、人差し指を一本立てた。
「忘れてた。いいよ、もう。すごく楽しかったし、慎也さんにたくさん払ってもらったし」
そうはいかない、と慎也は預金通帳を悠に手渡した。
「百万円?」
開いて、額を見た悠は驚いた。
0の数が、信じられないくらい多いのだ。
「ちょ、待って。一、十、百、千、万……」
一億円。
「慎也さん!?」
「これだけだ」
慎也は、澄まして指を一本立てている。
「大金持ち、とまではいかないが、これで悠も金持ちの仲間入りだ」
よかったな、などと言う慎也に、悠は訴えた。
「いくらなんでも、貰い過ぎだよ! ありえないよ、こんな金額!」
「それだけの価値が、この10日間には、お前にはあったんだ」
それと。
「悠はもう金持ちだから。明日には、ここを出るといい」
「え……?」
「マンションを買ってもいいし、高級ホテルに泊まってもいい。実家に帰って家族を見返してやるのもいい」
「……」
「大金を持って凱旋すれば、家族はきっとお前を受け入れる。金の力は人を変えるからな」
「……」
「悪いことは言わない。芥川の家に、戻れ」
「どうして、僕の苗字を? どうやって、口座を開いたの?」
「パスポートを取る時に、解ったからな。印鑑を作って、後は部下に準備させておいた」
そう、と悠はしおれてしまった。
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