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第七章・6

「眠いのか」 「うん……」  体を拭いてやる、と慎也は優しく丁寧に悠の体をタオルで清めた。 「慎也さん」 「何だ?」 「大好き。愛してるよ」  息を吐きながら囁かれた言葉を最後に、悠は寝入った。 「私もだ。悠、お前を愛してる」  彼の耳に届かないことを知りつつ、だからこそ、そう伝えた。  これが、情。  そして、愛。  知るには遅すぎたが、死ぬまで知らないよりはましなのだろう。  悠を起こさないようにパジャマを着せてやり、自分もその横に寝た。  さらりと良い匂いのする髪をいじり、しばらくその寝顔を見つめていた。 「明日から、こいつはいなくなるのか」  耐えられるかな、と思った。  いや、耐えなければならないのだろう。  そして、毎日を過ごし、日常に帰ってゆく。 「今まで必死で生きてきた俺に与えられた、ご褒美だったのかもしれない」  この、悠との思い出がある限り、この先も強く生きて行けるだろうから。  手を取り合い、眠った。  明日が来なければいいのに、と思った。

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