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第八章 恋人です
一ヶ月経ち、慎也の街は治安が悪くなっていた。
弟と、それを支持する勢力が、ついに組から分裂してしまったのだ。
慎也の周囲は、それなりの制裁を下すよう求めたが、彼はそうしなかった。
「兄弟でいがみ合ってどうする。いずれ、あいつも解ってくれる」
「しかし先だっても、息のかかったクラブへ嫌がらせを!」
「放っておけ」
そんな慎也だったが、彼を支持する面々は自警と称して街をうろついた。
弟の元へ走った組員と鉢合わせし、小競り合いになることもしばしばだ。
さすがに放っておけなくなった慎也は、夜の街へと繰り出した。
黒いスーツにサングラス、といういで立ちで。
(こうしてみる限り、普段と変わらない街の灯だが)
その一つ一つに弟勢力が手を出し、寝返らないかと囁いているに違いない。
(やはり、衝突は避けられないのか?)
息を吐いたその時、背後から駆け寄って来る足音が聞こえた。
刺客か、と振り向いたその時、強い力でしがみつかれた。
「お兄さん、僕と遊ばない?」
「悠!?」
どうしてここへ、との言葉に返事はせず、悠は泣き笑いしている。
「会いたかった。やっと、会えたよ。慎也さん」
「とにかく、落ち着け」
付近にあった比較的健全なバーに悠と一緒に入り、慎也はその涙をぬぐってやった。
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