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第八章・2
「あれからね、僕いろいろやってみたんだ」
高級ホテルに泊まり、一流料亭で食事をした。
旅行をし、ブランド物を買いあさった。
「でもね、ダメだったよ。独りじゃ、ちっとも楽しくないんだ」
僕、慎也さんと一緒じゃなきゃ、ダメになっちゃった。
お金がいくらあっても、満たされない。
心に、ぽっかりと穴が開いてしまったから。
「実家へは、帰らなかったのか」
「迷ったけど、やめた。お金持ちの僕にすり寄って来る家族なんて、気持ち悪いもん」
「そうか……」
慎也は、コーヒーを飲みながら考えた。
せめて、家族の元にいてくれれば。
彼らとうまくやれれば、悠に害は及ばないだろうに。
「今の私と共にいれば、危険な目に遭うかもしれんぞ」
「どうかしたの?」
慎也は、組が二つに決裂し、この界隈が物騒になっていることを話した。
「弟さん、慎也さんのこと解ってくれなかったんだ……」
「残念ながら、な」
コーヒーカップを置き、慎也は溜息をついた。
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