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人間拾ってみた。
「…拾うって…」
―――まさか…俺を…?本気で言ってる…??
男性の言葉に少年は困惑し…
この状況に理解が追い付かない少年は、未だ涙で潤む瞳をパチクリさせながら
思わず目の前の男性の顔をマジマジと見つめる…
そんな少年の様子に男性が一瞬フッと笑みを見せ――前に向き直ると
再び少年の手を引きながらその場から歩き始め――
「!あ…、ッ、」
男性の言動に呆気に取られていた少年はそれに焦り…
慌ててその場で足を踏ん張って男性と行くことを拒もうとするが――
男性はそんな少年の些細な抵抗など構うことなく
少年を引っ張りながら駅構内を歩き出す…
「…ッ、」
人がまばらとはいえ…
仕立ての良い、グレーのスーツを着た長身の男性が
学生服を着た…やはり長身の少年を引っ張って歩く姿は
当然ながら人目を惹き――
「――いい加減…、離せって…っ!」
「…逃げるとわかってて離す馬鹿がどこにいる。」
「絶対に離さねーよ。」と――男性は前を向いたまま小さく付け加え…
未だ足を踏ん張りながら抵抗を示す少年の細い手首を更に強く掴み直すと
周囲の視線を気にすることなく、そのままスタスタと速足で歩き続ける…
そこに突然男性が「あ。」と言いながらまた足を止め――
「…そーいやまだ名乗っていなかったな。
俺は斎賀 信(さいが のぼる)。お前は?」
「ッ…なんで俺が…アンタなんかに…」
「なんでって…俺が今日からお前の飼い主になるワケだし――
拾った人間の名前くらいはちゃんと把握しとかないと。」
「…は?」
「言ったろ?お前が捨てる予定だったお前の命を、俺が拾ったって…
それはつまり今日からお前の命は俺のもん…所有物って事。
Are you with me?」
「ッ、なに…勝手な事…」
「勝手じゃねーよ。そもそも捨てようとしてたのはお前自身じゃねーか…
それも――走っている電車に飛び込むっていう…一番めーわくな方法で…
…ったく…どっちが勝手なんだか…」
「ッそ、れは…、」
男性…信(のぼる)の言葉に少年は返す言葉もなく俯き…
また暗い顔をして黙り込んでしまった少年に
信は呆れながら深い溜息をつくと、再度少年の手を引き
その場からゆっくりとした歩調で歩き出しながら話を続ける
「名乗る気がないのなら――俺が勝手に名前をつけちゃうぞ?お嬢ちゃん。」
「お…じょう…ちゃ…?」
「ん~…そーだなぁ~…
お前、女みたいな顔してるし…ユリってのはどうだ?
結構お前のその顔に似合っている思うんだが…」
「ッ、ふっ…ざけるのもいい加減に…っ、」
「…だったらお前の名前教えろよ。ユリちゃん。」
「ッ、」
―――なんで俺が…会ったばかりのヤツにこんな…
少年が幾分ムッとしながら顔を上げ――
自分の手を引いて前を歩く信の顔を伺い見る…
するとそこには妙に勝ち誇ったような人の悪そうな笑みを浮かべながら
自分の事を見ている信と目が合い――
「…ッ、」
「…どーする?ユリちゃんよ…ん?」
首を傾げ…
何処か自分の事を見透かそうとするような信のそのグレーの瞳に少年は耐え兼ね…
その瞳から逃げるように微かに視線を逸らすと
少年が一瞬悔しそうに顔を顰めた後、小さくその口を開いた
「………あおい…」
「ん?」
「ッ、高峰(たかみね)…っ、……葵(あおい)…、俺の…名前…」
少年…葵が観念してそれだけ言うと
キッと睨みつけるように信に視線を合わせる…
すると何故か信の瞳が少し驚いたように見開かれ――
「………葵…?」
「…?」
信がその名を反芻するように小さく呟き…
葵が怪訝そうに眉を顰めながら信に聞き返す
「…なんだよ。」
「あ…いや…何でもない…」
「…?」
―――偶然か…?確か…“あの人”の息子の名も――
“葵”だったような…
信は少年の手を引きながら微かにその表情を曇らせる…
―――どうだったかな…そもそも葵なんて名前…そんな珍しいもんでも――
いや…男に付けんのは珍しい…か…?
でもまあなんにせよ…
信がチラリと
先ほどよりかは大人しく自分に手を引かれながら歩く葵の方を盗み見る
―――俺は“いい拾い物”をしたのかもな…
高峰 葵…
信はその口角をクッと上げると
葵に気づかれぬよう小さく微笑んだ…
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