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車中にて。

三人は車へと乗り込み―― 片瀬が運転する車は駅を離れ…そのまま高速に乗るために 最寄りのICに向けて走り出す… その車の中で突然信が隣に座る葵に向けて手を差し出し―― 「…ケータイ寄越せ。」 「…携帯を?何で…?」 「いいから寄越せ。」 「…?」 葵は信の言う事を不振に思いながらもスラックスのポケットを漁り… おもむろにポケットからスマホを取り出すと ソレを渋々差し出された信の掌に乗せて渡す… すると信が葵のスマホから いつの間にか用意していたピンでsimカードを抜き取り パキッ…と指先で器用に二つに折ると、スマホ本体と共に車外へと投げ捨てた 「ッ!?ちょっとっ!」 突然の信の暴挙に葵は慌てるが―― 信はそんなもんどこ吹く風といった感じでパワーウィンドウを上げると にこやかな笑みを湛えながら葵に話しかける 「心配すんな。後で新しいの買ってやる。それより――腹減ってないか?  …つってもこれから高速上がって片道二時間の大移動だから――  食事が出来るとしたらサービスエリアになるワケだけど…」 「ごまかすなっ!何で捨てた?!」 「そりゃお前…トーゼンだろ…」 「?」 「お前の位置情報。」 「あ…」 ソレを聞いて――さすがの葵も察しがつく 「お前が言った通り――コレは言わば未成年者略取…誘拐だ。  俺についてくると覚悟を決めたお前本人がどー思おうがな。」 「…」 「…となると――ここで問題になってくるのがお前の“親御さん”だったり  お節介な友人知人なワケよ。」 「…親御さん…」 信のその言葉に… 葵の表情が一気に暗くなる… 「ん…?どーかしたか?」 「…なんでもない…」 「…?――まあ…ソレで、だ…  当然の事ながらお前の親御さんは  何時までも帰ってこないお前さんの事を心配して  ケーサツに捜索願なんかを出すワケよ。するとどーなる?」 「…俺の携帯から…位置情報を割り出そうとする…」 「exactly!だから申し訳ないが、携帯の方を捨てさせてもらった。  悪いな。」 「…」 信の言葉に葵は納得すると同時に―― その瞳を不安げに揺らし…視線を窓の外に移しながら葵は信に尋ねた 「…今、何時?」 「ん?今か?今は――20時半を少し回ったところだが…それがどうかしたのか?」 「…別に…」 「?」 ―――俺があの人との連絡を絶って…もうすぐ2時間といったところか…    じゃあもうすでに…あの人は大騒ぎしているかもな… 外を見つめる葵の表情が微かに歪む… ―――いつだったか俺が2時間くらいあの人との連絡を絶っただけで    あの人は警察に捜索願を出そうとしていた…    きっともう今頃は警察署にでも駆け込んで――    半狂乱になって(わめ)いているかも…    俺との連絡がつかないって… 葵は窓に映る憂鬱そうな自分の顔を眺めながら その瞳を閉じた… ※※※※※※※※ 「もう2時間も息子と連絡がとれていないんだぞっ!  捜索願をだしただろっ!今すぐ捜査してくれっ!!」 「…落ち着いてください…高峰さん…  息子さんは何歳ですか?」 「目の前の紙みを見ろっ!18って書いてあるだろうがっ!!  貴様ら捜査する気があるのかっ?!」 「…高峰さん…」 ハァ…と署内の受付で業務にあたっていた若い男性巡査が 目の前で喚き散らす男性に深い溜息をつきながら、呆れたように口を開く 「…貴方…これで三度目ですよね…?息子さんと連絡がつかないと言って  捜索願を出しにきたの…」 「それが何だっていうんだっ!今は関係ないだろっ!!  そんな事より今すぐ息子を――」 「…高峰さん。とりあえず捜索願の方は我々の方で預かっておきますんで――  今日のところはお引き取り下さい。  こんなところで貴方が喚いていても息子さんは見つかりませんし――  何より――他の方の迷惑にもなりますんで…」 「なっ、、それは一体どういう意味だっ!事と次第によっては…」 「高峰さん。」 「ッ、今日のところは帰るが――  もし息子に何かあったら真っ先に貴様を訴えてやるから覚悟しとけっ!!」 男性は受付の巡査にそう啖呵(たんか)を切ると 足早に受付を後にし―― 受付で男性の対応に当たっていた巡査は今度こそ盛大な溜息を吐いた… 「よっ!お疲れぇ~…お前も大変だな。」 「…大変だじゃないっすよ築地先輩…  俺もうこの仕事嫌になりそう…」 「まあそう言うなって。  それにしても親一人子一人とはいえ…  たった2時間で息子の捜索願出しに来るとは相当過保護だよな…あの人…」 「そうっすね…でも先輩…」 「ん?」 「俺これで三度目になるんすけど――  この息子さんの顔写真見たら…  あの人の心配する気持ち…ちょっとわかる気が――」 「ん~?どれどれぇ~…、ッ!?コレは――」 「…ね?スッゲー美人でしょ…?  儚げで――まるで白百合みたいで…」 巡査は捜索願の為に提出された少年の顔写真を ウットリとした表情で見入り 横からその写真を見た先輩巡査長も「ホゥ…」と感心した様子で見入る… 「確かにコレは心配する気持ちも分からんでもないが…  それにしてもお前まさか――」 「ッ!?ちっ…違いますよっ?!俺全然その()は――」 「フフッ、わーてるって。」 「!もー…」 「それより今日どっか飲みに…」 ※※※※※※※※ ―――ッ…やはり高校になど…行かせるべきではなかったんだ… 男性は菊花警察署から荒い足取りで外に出ると 駐車所に停めてある自分の車に真っ直ぐに向かう ―――閉じ込めて…鎖にでも繋いでおけばこんな事には…っ、 男性はおもむろに上着のポケットから携帯を取り出すと 歩きながら何処かに電話をか始め―― プツッ、『(しのぶ)さん…何か御用で…?』 「神崎…お前に頼みたい事が…」

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