8 / 137

とあるサービスエリアにて。

「はぁ~…疲れたぁ~…  俺ちょっとトイレ行ってくるっすね。」 「ああ…じゃあ俺たちは先に中のレストランで待ってるから。後から来い。」 「わっかりましたぁ~!あ…ここのレストラン、地元のブランド牛を使った  和牛ヒレカツ定食がお勧めみたいですよ。」 「ほぉ…じゃあ頼んでみるわ。」 高速に乗り、ぶっ続けで車を走らせること約一時間半… 片瀬の運転する車は休憩と食事も兼ね、県境のサービスエリアへと入ると 三人は車から降り、それぞれの目的地へと歩き出す。 比較的夜遅くまでレストランが開いているサービスエリアの為か もうすぐ22時を回りそうな時間帯とはいえ サービスエリア内はかなりの賑わいを見せており… そんな中店内をほぼ並んで歩く長身で見目麗しい… 一見してモデルか芸能人並みのオーラを放つ葵と信の二人は かなりの人目を惹きながら レストラン前に展示されている食品サンプルの前まで来て足を止めると フードコートや売店にいる人たちのからの伺い見るような視線を気にすることなく 二人並んで食品サンプルを見下ろす 「葵。お前は何食べたい?」 「…ラーメン。」 「…お前…お勧め聞いてたか?」 「…やっぱ激辛ビーフカレー。」 「…」 葵は食品サンプルから目を離すことなく、無表情でそう答えると 一人さっさとレストランの中へと入っていき 信も呆れた溜息を吐きながら葵の後に続く… レストランに入り、店員に案内されるがまま二人は席に着くと おしぼりで手を拭きながら葵がふと、その口を開いた 「…アンタさぁ…」 「…アンタじゃない。俺には(のぼる)というれっきとした名前があるんだ。  名前で呼べ。」 「…信はさぁ…」 「…呼び捨てかよ。まあ…いいけど…」 信は呆れながらおしぼりで手を拭き終わり… 目の前のお冷に手を伸ばそうとしたその時 「信は――一体何者なの?」 「…」 唐突に出た葵からの質問に…信のその手はピタッと止まり… 信が少し鋭い視線で葵の方を見やる… すると葵の方も真剣な眼差しで信の事を見つめ返してきており―― 「…何者?」 「…フツーの人じゃないよね?あの片瀬って人も含めて…」 今まで手を拭っていたおしぼりをテーブルの上に置き―― 葵がお冷に手を伸ばして一口くちに含むと、また相手を探るような視線を信に向け 信も葵を探るような口調で尋ね返す 「…何でそー思う?」 「ん~…感?」 「…感?」 「そ。ただの感。でも――  片瀬って人のアンタへの接し方といい  車の中で俺のスマホを躊躇なく外に投げ捨てたアンタの手際といい…  どー見ても“普通の会社員”には見えないよ?悪いけど…」 「あと見た目も。」と小さく付け加えながら葵はもう一口水を(すす)る 「…」 ―――意外とよく見てんだな… 信の口角が微かに上がり 悪戯っぽい笑みを形作る 「…で、どうなの?」 「あ~…バレちゃしょーがない…実は俺――」 止まっていた信の手が目の前のコップを掴み、中の液体をゆらゆらと揺らし… 信が勿体振るように一呼吸置いてからコップの水を一口(すす)ると 静かにその口を開いた… 「『World recovery』の社長さんやっててさぁ…」 「え…」 どうやら葵も名前くらいは聞いたことのあるらしいその社名に 目を丸くしながら目の前の男を凝視し 信もそんな葵の反応に気をよくしながら 上着のポケットから品のよさそうな黒い牛革製の名刺入れを取り出すと 得意げな笑みを浮かべながら中から一枚の名刺を取り出し スッと目の前の席に座る葵に差し出した 「ほら、コレが俺のメーシ。カッコイイだろ?」 見るとそこには高級和紙を使った黒の小さな用紙の表面上に 桜の花びらを(かたど)った金の箔押(はくお)しが風に流されているかのようなイメージで 大小様々に散りばめられ… その中央に銀色の文字で『斎賀 信(さいがのぼる)』と恐らく手書きで横に書かれた 凄い綺麗な字体の下に『World recovery代表取締役社長』と印刷されており―― 「…カッコイイって言うか――綺麗…?」 その名刺を受け取りながら葵が呟く 「だろ?我ながら気に入ってんだよね~その名刺。」 「ふ~ん…」 葵は受け取った名刺をちょっと慎重そうにブレザーのポケットにしまう 「最近は企業スパイとか油断ならないから  携帯パソコン関連は特に慎重にならざる負えなくってね。  位置情報なんかの(たぐ)もそう  だからお前さんの携帯を捨てるのもパッと思いついたってわけ。  社長も大変なのよ~…色々と…」 「へぇ~…」 まだどこか疑っている感じの葵だったが それでも一応は納得したらしく 再びチビチビとお冷を飲み始める… そこに片瀬が二人を見つけて駆け寄り―― 「お二人とも、もう注文済ませちゃいました?」 「いや?お前が来るの待ってたんだよ。」 そういうと信はテーブル横の呼び鈴を押し 店員がハンディ片手に三人の座る席へ近づくと 信が改めて口を開いた 「俺の奢りだから好きなの頼んでいいぞ。」 「マジっすか!ヤッタぁ~!じゃあ俺はやっぱこの“和牛ヒレカツ定食”で!」 「俺も同じやつ。後ビールをもらおうかな。」 「和牛ヒレカツ定食2つにビールですね?かしこまりました。  ソチラの方は?」 店員がどーせ同じもの頼むんでしょ?みたいな空気を醸し出すが 葵は無表情で 「…激辛ビーフカレー。あとオレンジジュース。」

ともだちにシェアしよう!