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夜景。

―――慣れてるって…一体どーゆー意味だ…? 信が共用エントランス前に立ち 顔をエントランス上部に備え付けられているセンサーに向けると ドアは自動で開き―― 二人は手を繋いだままエントランス内へと入る… ―――まさかとは思うが――監禁に…って事じゃないよな…? 監禁に慣れてるってどーゆー事だよ…と思いながらも―― 信は葵の手を引き…ゆっくりとした歩調でエレベーターに向け歩きながら チラリと隣を歩く葵を盗み見る… するとそこにモーニングコートを着た一人の若い男性が二人へと近づき―― 「お帰りなさいませ。斎賀様。」 「!ああ…西崎(にしざき)さん…こんな時間までご苦労様。  で…俺に――何か…?」 「はい。実は先ほど斎賀様宛に伝言を頼まれまして――  それを書き取ったメモをお持ちいたしました。」 そういうと西崎は小さなメモを信にスッと差し出す 「河野(こうの)様と(おっしゃ)られる方からの伝言でございます。  それでは(わたくし)はこれで失礼いたします。」 「ん…わざわざどーも。」 信が差し出されたメモを長い指先で挟んで受け取り 了承の意味を込めてメモを持つ手を軽く上げると 西崎は綺麗な一礼をして、その場から颯爽と立ち去る 「…今の人は…?」 「ん~?コンシェルジュの西崎さん。俺…あの人苦手。」 「ふ~ん…」 二人は再びその場から歩き始め 信が受け取ったメモを歩きながら眺める… ―――河野のヤツ…俺の携帯ではなく    わざわざコンシェルジュに伝言頼むとは一体どういう―― 信が怪訝な表情を浮かべながら無言でメモを読み進める… 「…ッ!」 するとそのメモを読み終わった途端 信が「チッ、」と忌々し気に舌打ちをしながら 手にしていたメモをクシャッ…と握りつぶし―― 「…?どうかした…?」 「ッ、あっ…いや…別に大した事じゃねーよ。そんな事より――  丁度こんくらいの時間から見る俺の部屋からの夜景は静かで最高なんだ。  見たらきっとお前も気に入ると思うぞ?」 「…俺――高いとこに苦手って言わなかったっけ?」 「アレ…そうだっけか…?まあ…そんなこたぁ~どうだっていい。  さっさと俺の部屋に行くぞ!」 「っちょ…俺は夜景なんて見ないから…っ、」 「まあまあそー言わずに…」 顔を顰め…あからさまにテンションが下がっている葵をしり目に 信は先ほど丸めたメモを上着のポケットに突っ込むと タイミングよくドアの開いたエレベーターに向け 信が足取りが重い葵を引っ張りながら駆け込み―― 二人を乗せたエレベーターはそのまま静かにドアを閉じた… ※※※※※※※ エレベーターが二人を乗せて昇ってる間―― 葵の顔色はどんどん悪くなっていき… ―――マジで高いところが苦手だったんだな…    このエレベーターがシースルーじゃなくてよかった… 何かに耐えるかのように青ざめながら俯いている葵の手が… まるで縋るように握っている信の手をギュッと強く握りしめ―― その手から葵が微かに震えているのが分かり… 信はその手を握り返しながら気遣うように葵に声をかける 「…なんか――悪いな。  まさかここまで怖がるとは――」 「ッ、だい…じょうぶ…、  怖いのは…高いってだけじゃない、から…」 「――それはどういう…」 信が眉を顰め…葵の言った意味を聞き返そうとしたその時… 丁度“チンッ!”という音と共にエレベーターのドアが開き 信は青ざめたままの葵の手を引きながらエレベーターから降りる 「…大丈夫か…?」 「ッ…」 ―――大丈夫…ここは家じゃない…    ここは“あの人”の待つ家じゃ…、ッ、 葵はその瞳をギュッと閉じ… 信の引く手に身を委ねながら長く感じる廊下を歩く… そこに突然信の足が止まったと思ったら “ピッ…ピピッ”という電子音と共にカチャッ…という鍵が開くような音が聞こえ―― 「ホラ、着いたぞ。  …いつまで目ぇ(つむ)ってる気だ?」 「…」 信の声に… 葵は恐る恐るその閉じている瞼を上げようとしたが―― 「ッ!待った待ったっ!もう少しだけ瞳閉じてろ。  俺がイイと言うまで開けんなよ?分かったな?」 「…?」 それを突然慌てた様子の信が止め―― 葵は訳が分からず、目を瞑ったままその場に立ち尽くす… 暫くして――自分のすぐ隣で 信が恐らくスマホを(いじ)っているらしい音が小さく聞こえてきて… 「フゥ~…よし、もう目を開けてもいいぞ。多分全部閉めたはず。」 「???」 信に促され―― 葵は今度こそその瞳をゆっくりと開けると そこは磨き抜かれ… 鏡のように天井などを映す黒い大理石を基調とした シックな色合いで統一された広い玄関で―― 「うわ…くろ…」 「…お前…人んち来て、第一声ソレかよ…  まあいい。ホラ、上がれ。」 「…おじゃまします…」 「おう。」 信は葵の反応に思わず苦笑いを浮かべ キョロキョロと辺りを見回す葵の手を引きながらリビングに入る するとそこも玄関と同じく 黒の大理石に合わせた色合いの家具や調度品なんかで 綺麗に(まと)められており… 「ホント…真っ黒…」 「…うっせーなぁ~…黒が好きなんだよ。ほっとけ。」 「カーテンやブラインドまでまっ…、」 葵がそこまで言いかけ 『丁度こんくらいの時間から見る俺の部屋からの夜景は静かで最高なんだ。  見たらきっとお前も気に入ると思うぞ?』 信がさっき言ってた言葉を思い出し…葵はリビングの中を見渡すが 目に見える範囲の窓という窓のカーテンやブラインドが 全て下ろされていて―― 「…夜景…」 「ん?」 「見せたかったんじゃなかったの…?」 「!ああ!見せたかったけど――お前…高いとこ苦手だろ?  だったら無理して見せるもんでもないしな。  お前が怖がるといけないから念のため  この家のカーテンとブラインドは全部閉めたよ。  流石に朝になったら一部は開けるが――  それでもほとんどは外が見えないように閉じとくから安心しろ。」 「…」 「そんな事より部屋だ部屋!まずは隣のダイニングキッチから――」 そういうと信は再び葵の手を引いて歩き始め… 葵は自分に対しての信の気配りに複雑な思いを抱きながら 信の握るその手を握り返し 大人しくその後に続いた…

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