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遊びなれていても――

「…は?」 ―――今なんつった…?    “何でなにもしてこないの”かって言ったか…? 薄暗い部屋の中… 位置的に信の方からは葵の顔は見えないが―― それでも葵の腰を抱いている信の手からは 葵が微かに震えているのを感じ取り… ―――震えてる…?何で… この部屋の温度は常に快適な温度で一定に保たれているにも関わらず―― それでも震える葵に信は怪訝な表情を浮かべ 更には突然投げかけられた葵からの疑問符に、信はただただ困惑するしかない… そこに追い打ちをかけるように葵が再び口を開き―― 「…何で…、ッ、信は俺に何もしてこないの…?」 「…お前それ……一体どーゆー意味だ?」 「ッ、だって…一緒に寝るって…、つまりは“そういう事”なんでしょ…っ?  俺を拾ったのだって…  結局は俺に“そういう事”をする為に拾ったんじゃないのっ?!」 「だから…っ、そういう事って一体どういう――    ッ!?」 そこまで言いかけ――信は急にハッとなる ―――コイツまさか…自殺しようとしてた理由って―― 確証はない… 葵はただ信に“何でなにもしてこない”のかと聞いただけ… それでも一緒に寝るのイコールが“そういう事”… つまりは“何かされる”という答えに結び付くというのなら―― それはつまり… 「…お前まさか……今まで誰かに無理矢理…」 「…ッ、」 信の言葉に葵の肩がビクンッと跳ね… 葵の腰を抱く信の手には 身体を強張らせ…先ほどよりも強い震えが嫌でも伝わって来て―― 「…」 明らかに怯えた様子で震える葵のその反応こそが“答え”であり―― 信の“疑い”は“確信”へと変わる… 「…葵、こっち向け。」 「ッ…やっ、」 「…いいからこっち向けって。」 「………」 葵は渋々身体ごと信の方へと向き直る… すると葵は今にも泣きそうな顔をしていて―― 「ハァ~…いいか葵…  俺は何でお前が自殺しようとしていたか何て野暮な事は聞かない。  勿論、お前自身が俺に話たくなったというのなら――その時は聞くが…  それまでは聞く気もない。」 「………」 「だがな葵…これだけは言っておく。  俺がお前を拾ったのはお前の言う“そういう事”をする為にじゃない。  そもそもいくら俺がモテて――そこそこ遊びなれているからと言っても…  俺は今まで男なんかと“そういう事”になんかなったこともねーし…  やり方を知っていても…流石に今の俺にはハードル高すぎるわ…  男と“そういう事”すんの…」 「――でも…っ、ッ、アンタさっきリビングで“覚悟しとけ”って…」 「ああ…それな。実は俺――  極度の末端冷え性でさ…」 「………は?」 信の足が――すり寄るように葵の足に絡みつく… 「だから…お前に湯たんぽの代わりに温めてもらおうかな~っと思って  期待してたのに…  お前の足の方が冷たいってどーゆ―事だよ…」 葵の足を擦るようにすり寄っていた信の足が スゥー…と葵の足から離れようとしたその時 今度は逆に逃すまいと葵の足が信の足に絡みついてきて―― 「…おい。」 「…あったかい…」 「…だろうな。さっき風呂から上がったばっかだし…  つかマジで冷てーな、お前の足!」 「んふふ…」 「ハァ~…もうちょっとこっち寄れ。」 「ん…」 そういうと信は葵を抱き寄せ―― 二人の身体は更に密着し、もう顔も互いの息がかかるくらいの距離まで近づく 「…兎に角…だ…  俺は今のところお前に“そういう事”をする気はないし――  お前の嫌がることをするつもりもない。  お前を拾ったのだってアレだ。ただ単純に俺の気まぐれってやつだ。  だから――お前が俺に拾われたことを気に病む必要はないし  俺になんかしてやろうだなんて思う必要もない。…分かったか?」 「…分かった。」 「よし。分かってくれたんならそれでいい。…それじゃあ――もう寝るか…  お休み。葵…」 「…お休み……信…」 二人は一度互いの顔を見合わせ… 微睡の中で互いに微笑みあうと―― 互いの足をくっつけあいながら、静かにその瞳を閉じた…

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