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デート10

「…兎に角お前が無事でよかった…葵…」 「…ッ信…、」 信は葵の溢れ出る涙をそっと親指の腹で拭い―― 心底ホッとしたような笑みを浮かべながら葵の瞳を見つめ… 葵の方もその濡れそぼる黒曜石のような瞳で信の姿を映しながら 同じく自分の姿しか映していない信の瞳を見つめ返す… 二人はただ黙ってお互いの瞳を見つめ合い… これが男女なら互いの唇を合わせそうな程の甘い空気が二人の間に流れるなか… そこに大男に潰されていたうちの一人が何とか大男の身体を退かすと 頭を押さえながらムクリと起き上がり―― 「~~~ってぇ~なぁ~…おいオッサン!  なにそんなとこで二人でイチャイチャしてくれてやがんだよ…  俺の邪魔しやがったくせに…っ!  あともうちょっとでコイツをアンタの連れにブチ込めたのによぉ…」 チャラそうな茶髪の男はそう言いながら まだ出しっぱなしになっていた粗悪な一物をズボンにしまうと ゆっくりとその場から立ち上がり、見つめ合う二人を睨みつけ… 信の方も今の一言で再び怒りに火が付いたのか 一瞬その瞳に剣呑(けんのん)な光が宿り… 信は着ていたテーラードジャケットを脱いで葵の肩にそっとかけると 不安げに自分の事を見つめる葵に対して優しく微笑みながら 「心配するな。」と一言言葉を残し その場から静かに立ち上がるとスッと男の方へと向き直る… その表情は今まで葵に見せていたものとはまるで別人かと思わせるほどの 凶悪なもので―― 「ッ、ふ…フンッ!テメーがどんな手を使ってまで  勝っちゃんを()したかまでは知んねーけどよ…」 男は信のその表情に一瞬怯みはしたものの―― 着ているジャケットのポケットに手を突っ込み… 中で何かを握りしめると、その口角をニッと上げながら勝ち誇った笑みを見せる… 「…俺の邪魔をして――  ただで済むと思うなよっ!」 茶髪の男はそう叫ぶと同時に ポケットから取り出した“何か”を手を握りしめたまま信に向かって駆け出し… あと数歩で信に手が届くといった距離で男が握りしめていたモノを軽く振ると パチンッ!という音と共に鋭く光を反射する“何か”が姿を現し… 男は狂気を含んだ笑みを浮かべながらその“何か”を信めがけて突き出した 「死ねやオラァッ!!」 ヒュッと風を切りながら自分に伸びるナイフの切っ先に 信は特に驚くことも怯むことなくただ静かに見つめ… ―――フム…折りたたみナイフか…    いちいちやる事がせっこいなぁ~… 信はそのナイフから目を離さずに軽く息を吐くと 自分に向かって伸びてくるナイフを持つ男の手首を 右手側面で素早く下に叩きつけるようにしてバシィッ!と払いのけ その衝撃でナイフは男の手からは呆気なく離れ… 「ッな…、」 そのままナイフは個室トイレの中に床を滑るようにして転がっていき―― やがて個室の壁にコン…とぶつかるとその動きを止め… 男は信に腕を払いのけられた時の格好のままその場で固まり―― 信はそんな男を冷ややかな視線で見つめながら無言で見下ろす… 「…」 「…」 「…“ただで済むと思うなよ”?」 「あ…いやぁ~…その…、」 男は信の視線にたじろぎ…一歩後ろに下がろうとするが―― 「おっと…逃げんなよっ、と…」 信は後ずさろうとする男の鳩尾(みぞおち)に 下から(えぐ)り込むようなパンチを素早く食らわせ 「がっ、は、ぁッ、、」 男はたまらずその場に両膝をつき…胸を押さえながら(うずくま)る… そこに信が(ひざまづ)いた男の前髪が乱暴に鷲掴み、上向かせると 凶悪な笑顔を浮かべながら口を開いた 「お前ら…  男襲うのはコレが初めてじゃナイよなぁ~…?」 信はチラリと洗面台の上を見ると そこには葵を拘束するために使ったガムテープやら 孔をほぐす為に使ったと思われるローションなどが置かれ―― いかにこの男たちが準備万端用意周到に葵を襲ったのかを物語っており… 信の凶悪な笑みに更に凄味が増す… 「…こんなレイプ魔…野放しにしといちゃいけね~よなぁ~…  仕方ない…ケーサツ呼ぶかぁ…」 葵の件も含め… 今最も警察と関わり合いになりたくないのは信自身なのだが―― 背に腹は代えられないと溜息をつきながらスラックスのポケットに手を突っ込み 携帯を取り出す素振りを見せる… すると茶髪の男は慌てて止めに入り―― 「ちょっ…ちょっと待ってください…っ!  も、もう二度とこんなことは致しませんのでどーか警察だけは――」 「…めんきょしょ。」 「え…」 「持ってんだろ?免許証。出せ。他のヤツのも。」 「ッは、はいっ!」 茶髪の男は慌てふためきながら自分の免許証を信に差し出し その後覚束(おぼつか)ない足取りで他の二人の元へと駆け寄ると ポケットなどを(まさぐ)って他の二人の分の免許証も信に手渡した 「野田 勝也に神田 京介…上原 亮ね…  お前ら…顔と名前を覚えたからもし…  “もし”なんてもんはもう無いが――  それでも“もし”またこんな事件が俺の耳に届いたら――  わかってんだろうな?」 信が凄味を利かせた目で茶髪の男…神田 京介を睨みつけながら 受け取った免許証を投げて返すと 京介はもうすっかり怯えた様子で完全に毒気を抜かれたらしく… 震えながら信の目の間で土下座までしだす始末で―― 「は、はいぃっ!もう二度とこんな真似は――」 「…だったら他の二人を起こしてさっさと俺の前から姿を消せ。  …目障りだ。」 京介は床に散らばった免許証を拾い集め 他の倒れている二人を慌てて叩き起こすと 三人は逃げる様にしてその場から立ち去り―― 後に残された信は溜息をつきながら葵の元へと歩み寄る 「…待たせたな。葵…」 「…信って――強いんだね。」 「ん?ああ…ま~な…  それより葵…」 「ん?」 「その恰好エロイ。」 「…今――ソレ言う?」

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