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デート12

―――葵…なんだか元気ないな… 二人が席に着き、次々と出されるコース料理を堪能していく中で… 二人は…というよりかは 主に信が場を盛り上げようとして一方的に葵に話しかけ 葵がソレに返事を返すだけのものなのだが―― 葵は信との会話のあいだ中…終始上の空な様子で元気がなく… ―――やはりどこか具合が――    だが街を歩いてる時なんかは    普通に元気そうにしてるように見えたんだが…    ホントどうしたっていうんだ?急に…    確か――この店に入ってからだよな…?葵の様子がおかしくなったのは… 二人の間にどこか気まずい空気が流れるなか… ヴィアントとして出されたフォアグラのポワレを食べ終わり―― 最後に出されたデセールに二人が手をつけ始めた頃… 葵がちょっと不貞腐れた様子で イチゴのムースケーキをフォークの先っちょで突っつきながら 躊躇いがちにその重い口を開いた… 「…信ってさぁ…  今…付き合ってる人とかって…いるの…?」 「…なんだよ突然…(やぶ)からstickな事いいだして…」 「…古い。」 「いや、通じるとは思わなんだ。  それより本当にどうしたんだ?突然…今まで黙ってたくせに…」 「別に…ただちょっと気になっただけで…」 「ほ~ん…  …!さてはお前――義人の言ってたこと気にしてんな?  俺がとっかえひっかえ美女連れてこの店に来てるっていう…」 「ッ!べっ…つに…、ッ俺はただ――  信がどんな人と一緒にこの店にくんのかなって…  思った…だけで…」 葵は徐々に語尾を小さくしながら プスプスとムースケーキに細かい穴を開けていく… そんな葵の様子に信が意地の悪い笑みを浮かべ―― 「フッ…気にしてんのなら気にしてるってぇ~…素直にそう言えばいいのに…  ホ~ント葵ちゃんは素直じゃないんだからぁ~…」 「なっ、」 信の言葉に挑発され、葵がムッとしてその顔を上げれば そこには頬杖をつき… ニヤついた顔をしながも、見惚れるほどカッコイイ… 魅惑的な顔をした信と目が合い―― 「ッ、」 それに焦った葵が顔を真っ赤にしながら言い訳がましく口を開く 「べっ…別に俺はっ!信が誰と付き合おうが…っ、  そんなの全然…まったく…これっぽちも…気にしてなんか…、」 キッと睨みつけるように信の事を見つめていた葵の瞳は 徐々に小さくなっていく語尾と共に次第に逸れていき… 最後には再び俯き、その表情を長い前髪で隠してしまう… その様子に先ほどまで悪戯っぽい笑みを浮かべていた信は 今度はフッと呆れたような苦笑を漏らし… 「…葵。ちょっとコッチ見ろ。」 「…なんだよ…」 葵が渋々…視線を泳がしながら信の方を見る すると短い前髪をかき上げながら微笑む信の顔に ますます葵の視線は泳ぎ―― ―――ッ、そんな顔して…    信は今まで何人の女の人を此処で口説いてきたの? 「…ッ、」 葵の中に今まで感じたことのない“何か”が 胸の奥から沸々(ふつふつ)と湧き上がるのを感じ―― 知らずに葵の表情が苦し気に歪む… それに気づいた信が 葵の顔にかかる前髪をスッと優しく手で払い退けてやり… 戸惑いで揺れる葵の瞳を見つめながら優しい口調で語りかけた 「あのな葵…  お前があんまりにも可愛らしく俺に焼き餅を焼いてくれているようだから  一応教えといてやるが――  俺には今…お前が思っているような“付き合っている人”はいない。  俺がこの店に連れてきた女性達は皆仕事の関係者だ。  別に深い意味なんてない。  義人(アイツ)もそれ分かってて  毎回からかいのつもりで俺の連れにソレを言ってきてるだけだから。  …だからお前も何時までもそんな可愛い顔してむくれてないで――   いい加減…機嫌直せよ。葵ちゃん。」 「――ッ、だから…っ、俺は別に妬いてなんか――、ッ、」 葵は真っ赤にしながら 自分の前髪を押さえている信の手を払いのけようと顔を上げたその時… 突然信は自分の座る椅子から軽く腰を浮かすと 前の席に座る葵に顔を近づけ―― チュッ… 「…?~~~~ッ!?!?」 葵は一瞬何が起こったのか分からなかったが―― 自分の額に感じる柔らかい感触ですべてを察し… 葵は思わず両手でバッと額を押さえつけながら椅子ごと後ろに飛びのいた 「あっ…あっ…アンタ…ッ!こんなトコでいきなり何を…っ、」 「…どうだ?機嫌直ったか?葵ちゃん?」 「ん?」と微笑みながら楽しそうに首を傾げる信に 葵はもう…ただただ無言で額を押さえたまま 顔を茹でダコみたいにしてプルプルと震える事しかできなくて… ―――コイツ…コイツ…っ、 「うぅぅ~…」 葵は変な唸り声を上げ―― 目の前で何食わぬ顔でガトーショコラを食べ始めた信を涙目で睨みつけた… ※※※※※※※ prrrrr…prrrr…プツ 「はい。」 『忍さん。』 「ッ!神崎っ!見つかったかっ?!」 『それが――』 「っ何だ…まだ見つけられないのかっ、」 『…葵さんを乗せた車が高速に乗ったところまでは突き止めました。  しかし…』 「何だ…ハッキリ言え。」 『…忍さん…葵さんを連れ去ったヤツは――  相当厄介なやつかもしれませんよ…』 「…それは一体どういう事だ…?」 『…葵さんを乗せて高速に乗ったはずの車の映像が――  高速道路の監視カメラの映像には一切映っていなかったんです…  これはつまり…何者かが高速道路管制センターのサーバーに侵入し――  車の映像を消去…もしくは別の車に書き換えた可能性が…』 「ッ何っ?!そんな事が可能なのかっ?!  ソレを――葵を連れ去ったヤツがやったと…?」 『…まだ分かりませんが――  葵さんを乗せた車の映像だけに細工が施されているところを見ると  恐らくそうなのではないかと私は見ています…  ですから――これだけは覚悟しといて下さい…    葵さんを連れ去ったヤツは――一筋縄ではいきそうにない事を…』

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