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エマージェンシーコール。
二人がデートをした日からその二日後…
「それではこれで“斎賀 葵 ”様に関する全ての登録が
完了いたしましたので――
これからは葵様は自由にこのマンションへの出入りと
マンション内にある施設などをご利用していただくことが可能となります。
施設のご利用時間につきましてはコチラをお読みください。
また他にご不明な点などがございましたら
私共 の方に気軽にお尋ねください。」
「はあ……」
葵は西崎からマンションのパンフレットを受け取りつつ
複雑な表情を浮かべながら隣に立つ信を見やると
信はニヤニヤとニヤけた顔をしながら葵の事を見つめていて――
―――…絶対に楽しんでる…
葵がジットリとした視線を信に送るが
信は葵からの視線を気にすることなく西崎に視線を移すと
改めて西崎に礼を言った
「俺の“弟”の突然の同居手続きに付き合わせてしまって申し訳ない。
西崎さん。」
「…いえ。これも私共の仕事ですので…それでは失礼いたします。」
そう言うと西崎は葵が初めてこのマンションを訪れた時と同じように
表情ひとつ変えず、綺麗な一礼をしてその場を去っていき――
―――葵の身分証偽造とかにいろいろと手間はかかったが――
なんとか手続きが完了してよかった…
西崎の後ろ姿を見送りながら信はフゥ…と一息つくと
葵の方へと向き直り、その口を開いた
「…さて“弟”よ…
お前の同居手続きも無事に済んだことだし――これからどっか夕飯にでも…」
「…ところで――なんで…おとうと…?」
「そらお前…登録すんのにお前は俺の息子設定にするにしちゃデカすぎるし…
かと言って俺の“嫁さん”として登録すんのも悪かなかったろーけど――
俺がまだ…お前の夫としてちゃんとやっていけるかどうか自信なかったから…
だから無難なところで弟って事にしといたんだけど――
なんだ…?やっぱ嫁さんの方が良かったか?」
「………」
ニヤけながら肩を竦 めておどけてみせる信に――
葵の目が更にジットリと座る…
そこに信が突然「あ。」と言いながら何かを思い出したように
上着のポケットを漁り始め――
「葵。」
「…なに?」
「ホラ、お前にプレゼント。」
信が葵の手を取り、掌の上にポンと何かを置く
「…?」
葵が不審げに自分の掌を見てみると、そこにはスマホが握らされており――
「これ…」
「お前の新しいケータイ。失くすなよ?」
「!…ありがと…」
「どーいたしまして。ああ後そのスマホに
俺が作ったまだ試作段階のアプリを入れてあるんだが――
ちょっと電源入れてみ?」
「…?」
信に言われ、葵が不審に思いながらもスマホの電源を入れると
画面右下に何時も見慣れた通話やメッセージアプリのアイコンの他に
見慣れない…青文字で“eg”と表記されたアイコンが並んで表示されており…
「…コレは?」
「所謂 エマージェンシーコールみたいなやつだな。」
「エマージェンシー…?」
「そ。お前に何かあった時…
そのアイコンを押せば自動で俺の携帯やパソコンに
お前の緊急を伝えるメッセージと共に
お前の位置情報をリアルタイムで発信し続け
俺に知らせてくれるっていう便利なアプリ。」
「へぇ~…」
「…気軽に押すなよ?」
「…分かったけど…でもなんでそんなアプリを俺の携帯に…?」
「なんでって……お前もう忘れたのか?!
この間トイレで襲われかけただろーが!
あん時俺がどれだけやきもきしたと思って…」
「ああ…そーいえば…」
「ったく…兎に角だ。お前を探してるかもしれない親父さんの事もある。
俺が仕事中――もしくはお前が一人で外出した際に
この間のように誰かに襲われそうになったり何かあった時は
そのアイコンを押せ。俺がすぐに駆け付けてやるから…」
「…わかった…
ありがとう信…俺の事心配してくれて…」
「なぁ~に気にすんなって!
“夫”として自分の“妻”の身を心配すんのは当然の事だからな!」
「…アレ…?確か俺の設定ってアンタの“弟”じゃなかったっけ?」
「…ん?そうだっけか?まあそんな事はどうだっていい。
それより飯食いに行くぞ。今日は何がいい?」
「…背油マシマシ二郎系ラーメン。」
「…昨日もソレ食ったべや…
俺…死にそうになったべや…お前の胃の中どーなってんだよ…」
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