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散歩。

―――良い天気… 時刻はもうじき15時になろかといったところ… 葵は一人、マンションから出てすぐ近くにあるちょっと広い公園の散歩道を 春を思わせるようなポカポカ陽気に眠気を誘われながらも 散歩道に沿って植えられた街路樹を眺めながらトボトボと歩く… ―――信は自分が拾われた事を気にして何かする必要はないって言ってたけど…    今日は俺が信の為に何か夕飯でも作ってみるかな… 葵は木々を眺めながら自分が作った料理を前にして喜ぶ信の姿を想像し 顔が少し嬉しそうに(ほころ)ぶ ―――何がいいかな…やっぱカレー?それともハンバーグ?    俺――料理なんて作ったことないし…    包丁なんて高1の調理実習の時にちょっと触ったくらいだから    凝ったものなんて作れないけど――        信は――どんな料理が好きなんだろう… 葵は今までの信との暮らしの中で 信と一緒に食べたモノを思い出す… ―――少なくとも信は――    二郎系ラーメンがあまり好きだは無いという事だけは分かった。 昨日二人で食べに行ったラーメン屋で 葵がカウンター席でラーメンを食べ終わり…隣に座る信の方を見てみると 信が苦しそうに顔を顰めながらラーメンを食べている姿を思い出し―― ―――俺…あんな辛(つら)そうにラーメン食べる人初めて見た… 「クスッ…」と信に悪いと思いながらも葵はちょっと可笑しくなって噴き出し (こってり系は除外だな。)…と思いながら再び何を作るか思案する     ―――そういえば信が作ってくれた料理って    どれも割とあっさりしたものが多かったもんな…    じゃあ信は――あっさりしたのが好きなのかな…    あっさりした料理って何?薬膳料理とか?? 葵が(とぼ)しい料理の知識をフル動員しながら 俯き加減で歩道を歩く… すると―― 「…ッざっけんなよてめ…ッ、」 「がはっ、、」 「……?」 複数の男たちが何やら言い争いをしているような声が葵の進行方向にある 周りを木々に覆われた、人気のないトイレの中から聞こえ―― ―――なんだろう…喧嘩かな…    関わり合いになる前に引き返した方が―― 葵が嫌な予感を覚え… 踵を返そうと片足を後ろに一歩引いたその時 バンッ! 「うぐぅっ、、」 「ッ!?」 突然トイレの中から一人の金髪でチンピラ風の男が腹を押さえ… ヨロけながら転がるようにして歩道へと飛び出すとその場に倒れ込み… ソレを見た葵は咄嗟に近くの街路樹の陰にその身を隠すと それとほぼ同時に金髪の男が飛び出した同じトイレの中から 他に二人の男達が後ろを気にしながら慌てた様子で飛び出してきて―― 「ッ、なんなんだよアイツ…っ、バケモノかっ?!」 「どーするよオイ…他の三人もアイツに()されちまったしよ…  俺達だけじゃ――」 一人が歩道に転がっていた金髪の男をその場から引き起こしながら もう一人の男に話しかける… すると先ほど三人が飛び出したトイレの中から コツン…という微かな靴音が聞こえ―― 「ッ、」 「ひっ…」 三人が引きつった表情を浮かべながらトイレの出入り口を凝視する中… トイレからは一人の学生服を着た長身の少年が姿を現し… 少年はチラリとへっぴり腰で立ち尽くす三人の方を一瞥(いちべつ)すると 呆れた様子で溜息交じりにその口を開いた… 「…そっちから先に俺に喧嘩売っといて――  倒れた仲間置いてさっさと逃げ出すっていうのは  どういう事なんすかねぇ~…お兄さんたち…」 黒髪に――目にかかるくらいの前髪の間から覗くその黒い瞳は鋭く… 他者を威圧し、圧倒するかのような少年のその態度に チンピラ風の三人は まるで蛇に睨まれたカエルの様にその場で(すく)み上がり… 青ざめ…逃げ腰になりながらも目の前の少年に向かい 恥も外聞もなく哀願しだした 「った…頼む…見逃してくれ…ッ、俺たちが悪かった…だから…ッ」 「…見逃す?何で…?お兄さんたちから誘ってきた喧嘩じゃない…  最後まで俺と一緒に楽しもうよ…ねぇ…?」 少年はその端正な顔立ちに人の悪そうな笑みを浮かべると 怯える三人に向けてゆっくりと歩き出し… その様子に三人は益々怯え―― 「待てっ…、ッ、まあ待てってっ!かね…金なら払うから…っ、」 「…ふぅ~ん……幾ら?」 「ッ!オイお前らっ、サイフ出せっ!」 三人は慌てながら 上着のポケットやらズボンのポケットやらを(まさぐ)りながら それぞれ財布を取り出すと、三人は少年の足元に財布を投げて寄越し―― 少年が足元の財布を拾い上げながら静かに中身を確認していく… 「…」 「いっ…今はソレで勘弁してくれ…っ、」 「チッ………たいして持ってねぇ~なぁ…まっ…別にいいけど。  けどもしまたアンタ達が俺に喧嘩売るような事があったら――」 「ッ、二度とお前に喧嘩なんて売らねーよ!行くぞっ、」 「っ…他の三人はどーする…」 「そんなの知るかよっ!さっさと行くぞっ!!」 三人は足を引きずったりしながらしんどそうにその場から去っていき―― 後に残された少年は男達から受け取った財布の中身を抜き取り 財布自体をその辺に興味なさげにポイと投げ捨てると 抜き取ったお札を指でめくって数えながら、不意にその口を開いた 「…おい、そこのアンタ。いつまでそこに隠れてる気…?」 「ッ!?」 突然の少年からの声に葵は木に背中を引っ付いたままビクンッと肩が跳ね―― ―――え…俺に言ってる…? 周りには葵の他には誰もおらず… 少年は明らかに木に隠れているハズの自分に向けて話しかけているのが分かり 葵は木の陰で固唾を飲み込みながら固まる… ―――でもコレって――答えたらマズイんじゃ… 葵が木の陰で何も言えずに固まっていると―― 「…オイ。」 「ッ!?!?」 突然自分のすぐ隣からかけられた声に驚き… 葵は声のした方をぎこちない動作で振り向くと―― そこには年齢も身長もほぼ葵と同じくらいの少年が いつの間にか葵が隠れている木のすぐそばまで来ていて 腕を組み…肩で木に寄りかかりながら 木の陰で茫然と立ち尽くす葵の事を怪訝そうに見つめており… 「…アイツ等の仲間…ってワケではなさそうだけど――  こんな所で何してんの?お前…」 「ッ、何って…」 ―――隠れてたんだよっ!怖かったから…っ、 葵はその場から動く事が出来ず…引きつった顔のまま少年の事を見つめる… そこに少年の手がスッと葵の顔に伸び―― 「ッ、」 ―――なに…何っ!? 葵は自分に向かって伸びてくる少年の手に混乱し―― 何もできないまま思わずギュッとその瞳を閉じると 少年の手が構わずにスリ…と葵の頬に触れ―― 「…お前――随分と綺麗な顔してんだな。女みたいだ…」 「…ッ、」 少年のその言葉に葵が不快気に顔を(しか)め… 閉じていた瞼を思い切ってスッと開ける… 「ッ!!」 すると悪戯っぽい笑みを浮かべた少年の顔が 葵のすぐ目の前にまで迫って来ていて―― 「…女だと思って食べれば――案外イケるかもな…  美味しそうな唇してやがるし…」 少年がニヤけたまま親指の腹で葵の唇にそっと触れる… その感触に葵は思わずゾっとし―― 「~~~ッ、やっ、」 ドンッ!!! 「ぐっ……オイッ!」 我に返った葵は目の前にいる少年の身体を思い切り両手で突き飛ばすと 少年がよろけたその隙に、脇目も振らず 一目散にその場から走り出していた――

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