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もし…

「ッ、」 ―――そんな顔して言ったら…    “もし”の意味がなくなるじゃねーか… 潤んだ瞳で縋るように自分の事を見つめてくる葵の視線に 信の視線は焦りで泳ぎ…その表情は戸惑いと困惑で揺れる… そんな信の様子に、それを間近(まぢか)で見つめていた葵は 信への想いを抑えきれず…(みずか)らの感情の(おもむ)くまま 今自分が口走ってしまった言葉への後悔を滲ませるかのように その表情を曇らせ…逃げる様に信から視線を逸らすと この場を取り繕うかのようにその口を開いた… 「あ………やっぱ今のナシで。忘れて…信…  ごめんね?突然変な事聞いて…」 ―――俺のバカ…    こんな事聞いたら…信が困るのは分かり切っていた事なのに…    ッなのに…なんで俺…こんな事聞いて…、ッ、 葵はフッ…と泣きそうな顔で微笑み… 信の頬に触れたまま、信に握られている自分の手を引こうとする… しかし 「ッ…待て。」 「…ッ!」 信は引こうとする葵の手を強く握りしめると そのまま葵の手をグイッと自分の方へと引き寄せ… 「あっ…」 強く信に手を引かれた葵の身体は呆気なく信の方へと倒れ込み… 信は正面から葵の身体を抱き留めた 「ッ、、離し…、」 「…ならない。」 「―――え…?」 葵は突然信に抱き寄せられた事に焦り… 慌てて信から身体を離そうとするが―― 信は逃げようとするの葵の身体を優しく抱きしめると その唇を葵の耳元に寄せ…優しい声色で囁いた… 「…だから…ならないって…」 「ッ、何が…っ、」 「…だから……“もし”お前が俺の事好きって言っても――  俺はお前の事を嫌いになんかならないって言ってんの。」 「………ッ!」 信のその言葉に葵は思わず顔をバッと上げ―― 涙で潤んだ瞳を大きく見開きながら信の顔を凝視する… すると信は葵に優しく微笑みかけながら、少し呆れた様子で葵に話かけた 「…なに驚いてんだよ。自分で聞いといて…」 「…ッ、そう…だけど…でもっ、気持ち悪いでしょ…?  俺が“もし”信に好きなんていったら…」 「いや?別に?」 「ッ!ホントに…?」 「ああ。ホントーに。ただ――」 「ッただ…?」 葵は信の“ただ”の後に続く言葉に怯え―― 黒曜石のような瞳を不安で揺らしながら信の事を見つめ… 信はそんな葵の反応にフッ…微笑むと 葵の頬を指先で軽く撫でながら言葉を続けた… 「…ただ――お前が“もし”俺の事を好きって言っても――  今の俺には“まだ”…ソレに応えてやれるだけの覚悟は出来てないけどな…」 「ッ…いい…それでもいいよ…  “もし”の話なんだし…信が俺の事嫌いにならいのなら…  今はそれでいい…っ、」 葵は泣きそうになりながら安心しきった顔でそう言うと 信の肩口に顔を埋め―― 信の身体をギュッと抱きしめる… すると信も少し躊躇いがち葵の身体を抱きしめ返すと 苦笑を浮かべながらその口を開いた 「フッ…あくまで“もし”の話をしただけなのに…やけに嬉しそうだな…葵…」 「ッ、だって…嬉しいんだもん…例え“もし”でも…」 「ッ…そうか。」 「そうだよ。」 そう言うと葵は信の肩口に顔を埋めたまま抱きしめる腕に力を込め… 信はそんな葵の頭を優しく撫でていると 不意に何かを思い出したかのように言葉を続けた 「ところで葵…」 「ん…?」 「お前のせいで朝食パーになっちまったから――  今日は一階のレストランで朝食食うぞ。準備しろ。」 「え…?パンが焦げたのって俺のせいなの…??」

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