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自分の気持ち。

―――葵にはああ言ったが―― 信が社長室でパソコンと向き合い、淡々と仕事をこなす中―― 今朝の葵とのやり取りが頭から離れず… 信のパソコンを操作する手つきが普段ではあり得ないほどぎこちなくなる… ―――正確には葵の気持ちを受け止める“覚悟”がまだないというより…    “俺自身の問題にケジメがつくまでは”    葵の気持ちには応えられないというのが正しいんだろうな… 「…フゥ…」 カタカタとキーボードを打っていた手が止まり… 信はぼんやりとパソコン画面を見つめながら小さく溜息をもらす ―――ソレがなかったら俺はもう…    とっくに葵の気持ちを受け入れていただろう…    なんたって俺ももう既に――    葵と同じ気持ちなのだから… 信は眼鏡をスッと外すしその瞳を閉じると デスクに左肘をつきながら左手で軽く眉間を押さえる… ―――せめてケジメがつくまでは…    気づかないフリを…見て見ぬふりを決め込もうと思っていたのに――    アイツがあっさり“もし”と言う名の“本音”を    俺にぶちまけてきたもんだから…    俺も自覚せざる負えなくなったじゃねーか…    自分の気持ちに… 「ハァ~~~…やってくれる…  若いっていいなぁ~…チキショウ…」 ―――いうて俺もまだ29だけどなっ! 信はデスクに肘をついたまま盛大な溜息を吐き出しながら… これまた盛大な独り言を漏らす… そこに社長室の外から梶の慌てた様子の声が聞こえてきて―― 「そんな…困りますっ!社長は今仕事中で――」 「…?」 ただ事ではない様子の梶の声に、信は手に持っていた眼鏡をかけ直し… 社長室のドアに視線を向ける… すると社長室のドアがノックもなく 突然ガチャッ!と乱暴にドアノブを下ろす音と共に勢いよく開かれ 男の後ろから慌てた様子で止めに入る梶の制止を振り切り 一人の男がズカズカと無遠慮(ぶえんりょ)に社長室に入ってきた… 「…(のぼる)。」 「…(ひとし)…」 信は突然社長室に乱入してきた男を鋭い視線で一瞥すると 溜息交じりに男の後ろにいる梶に声をかけた… 「…梶君…」 「すっ、すみません社長…散々お止めしたのですが…  この方が“また”勝手に――」 「ハァ~…もういい…梶君は下がって。」 「ッ本当にすみません社長…」 「…梶君が謝る必要はないよ。  悪いのはこの横暴で野蛮な国家権力の犬なのだから…」 「おい。」 「っでは…失礼いたします。」 「ん。」 そう言うと梶はそそくさと社長室から出て行き―― 後に残された信は席から立ち上がり、デスクの横に立つと 腕を組みながらデスクに軽く腰を寄り掛け… デスクの前に立つ男に挑発的な笑みを向けながらその口を開いた… 「――で?  今日はどーいったご用件でウチに来られたんですか?  真壁 仁(まかべひとし)警部補。」

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