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探り合い。
口元は嫌味なほど綺麗な弧を描いてはいるが――
その目は全然笑ってはいない信が
客に応対しているとは思えない程の不遜な態度で
グレーのスーツをキッチリと着こなす長身の男性…真壁 仁を
鋭い視線で見つめ――
仁もそんな信からの視線を真っ向から受け止め
堅苦しいがその整った顔を若干顰 めながら口を開いた
「…お前に聞きたい事がある。」
「…聞きたい事とは?」
「…コレだ。」
「…?」
仁はおもむろに上着の内ポケットを漁り、一枚の写真を取り出すと
ソレをスッと信に差し出し――
信はその差し出された写真を訝 し気な表情で受け取ると
黙ってその写真に視線を移す…
「………ッ!」
―――コレは…っ、
すると信はその写真を見た途端…
実に不快そうにその表情 を顰めながら声もなくその写真を凝視し…
仁はそんな信の様子を伺うかのような視線で信の顔を見つめると
無表情でその口を開いた
「…何か心当たりは?」
「…心当たりとは?」
「…その腹の上の男の顔に見覚えは?」
「…ありませんよ。会った事もない…」
「…本当に?」
「ええ…
もし疑うのでしたら――“また”誰かに私の身辺を探らせてみたら如何です?
きっと“また”何も出てこないでしょうけど…」
「…」
信の棘のある言い方に
仁のその無表情が微かに険しさを増す中、信が言葉を続ける
「…それにしても――こんな惨 い写真を
いきなり“一般人”である私に見せてくるだなんて…
相変わらずデリカシーの欠片もない人ですね。貴方は…」
「フッ…一般人…ね。」
「…」
信の言葉に皮肉な笑み零 す仁に、信は一瞬鋭い視線を送るが
すぐに写真に視線を戻すと、口に手を当てながら考え込む…
―――しかしコレは…
その写真に写っていたのは
全身に牡丹や唐獅子などといった色鮮やかな刺青を施した一人の男性が
白い雪の上で全裸で仰向けになって横たわっているというもので…
これだけならまだ信からしてみたら大したとこはないのだが――
問題なのはその男性が自分の腹の上に両手で大事そうに抱えているもの…
それは恐らく…その男性自身の生首と思われるもので――
―――こんだけ派手で…
しかも名のある彫師の作と思われる刺青をしてるって事は
何処かの組の幹部クラスだと思うんだが――誰だ…?
少なくとも昇竜会(ウチ)の傘下を含めた組員ではないな…
そもそもウチで誰かが死ねば速攻で知らせが届くハズだし――
信は自分の腹の上で苦悶の表情を浮かべている男の顔をマジマジと見つめる…
そこに仁が溜息交じりに口を開き――
「…被害者は加藤 修也 32歳。
昇竜会と敵対する組織の一つ…
“黒狼会 ”に所属する若頭候補の一人だ…」
「…黒狼会…」
わざと昇竜会を強調するような仁の言い方に、信は一瞬眉を顰めるが
それよりも“黒狼会”という名前の方が気になり…
信は確かめるようにその名前を呟いていた
「…心当たりは?」
「…先ほども申し上げました通り…何もありませんよ。真壁 仁警部補殿。」
「…」
信の言葉に、仁の眉間にあからさまに皺が寄る…
―――…確かに黒狼会とは過去に
互いの勢力拡大に伴って生じる様々な利権などを巡って争ってはいたが――
今は特に目立った争いはしていなかったと思うが…
それに最近では親父が黒狼会との休戦協定を考えていて――
「………」
―――いや…まさかな…
信の脳裏に…一瞬嫌な考えが過る…
―――…やめよう…今はまだ――情報が少なすぎる…
しかし信は一旦その考えを頭の片隅へと追いやり
先ほどからコチラの様子を鋭い視線で伺い見ている仁に対し
フッ…と皮肉の混じった笑みを見せると
先ほど受け取った写真を仁に返しながらその口を開いた…
「それにしても…
こんな写真を持って“また”私の元へきたという事は――
まだ疑ってらっしゃるんですか?私と昇竜会との関係を…
あれだけ私の身辺を探っておいて…」
「…ああ。」
信から受け取った写真を内ポケットにしまいながら
疑心を隠す事無くそう答える仁に、信はその笑みを深める
「でしたらいい加減…
その昇竜会とやらと私とを繋ぐ証拠を出していただけませんかねぇ~…
…正直迷惑なんですよ…
昇竜会絡みと思 しき事件が起きるたびに
アポも取らずに貴方が私の所に来るのは…」
「信。」
不意に名を呼ばれ、信がチラリと仁の方に目をやると
仁のその鉄面皮が微かに悲痛に揺らいでいるのが見て取れ
信は思わず息を飲む…
「お前が橘先生が殺された日を境に…
まるで人が変わったかのように形振り構わず
あらゆる手を尽くして犯人を探し出そうとしていた事は俺も知っている…
お前が――高校の時から橘先生に惚れていたことも…」
「ッ、」
仁のその言葉に…
今まで余裕の伺えた信の表情からは一切その余裕が消え――
代わりにその瞳に冷たく刺すような殺気を宿しながら
静かに仁を見つめる…
「…だからってな…俺はお前が今現在も犯人の情報を得るために
裏で反社会組織に多額の懸賞金を払ったりしているのを
黙って見過ごすワケには――」
「…だったら…」
信が仁を睨 めつけながら…凍てつくような低い声で呟いた…
「…だったらこんなしょーもない事件追ってないで…
さっさと橘先生を殺した犯人捕まえろよ。駄犬。」
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