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目指すところ。

「信…」 「…、」 ―――マズった… 苛立ち紛れに呟いた言葉にハッとなった信は 一度気持ちを落ち着かせるために瞼を閉じ… 静かに息を吐き出すと再びゆっくりと瞼を開け、仁の方を見る… すると仁は先ほどの信の呟きに少なからず傷ついたのか―― その瞳を微かに悲し気に揺らしながら信の事を見つめており… ―――…相変わらず…叱られた犬みたいな顔しやがるな。コイツ… 信は内心舌打ちしたい気持ちを堪えながら静かにその口を開いた 「…失礼。少々口が過ぎたようで…  兎に角もう…話がお済のようでしたら――そろそろお引き取りを。  私も暇ではないので…」 暗にこれ以上お前と話すことなど何もないと言わんばかりに 信はデスクに寄りかかったまま手をスッとドアの方に向け差し出す… しかし仁はその場から微動だにもせず… ただ真っ直ぐに信を見つめながら次の言葉を口にした 「…橘先生を殺した犯人を見つけたいと思っているのは俺も同じだ。」 「…知ってる。  お前が警官になった理由も橘先生の事件がきっかけだという事もな…」 真っ直ぐに自分の事を見つめてくる仁からの視線に耐え兼ね… 信が俯きつつ仁からその視線を逸らすと―― その表情に悲痛と悔しさを滲ませながら、辛そうに言葉を絞り出す   「でもな…お前の心情がどうであれ――  お前ら警察は結局…新しく重要性や話題性の高い事件が舞い込めば  過去の事件なんかはあっという間にないがしろにするじゃねーか…  現に橘先生の事件は、事件発生当初から僅か三か月余りで特別捜査本部は解散…  その後事件は何の進展もなくもう6年だ…考えられるか?」 「………」 信の言葉に仁は何も言い返す事が出来ず… その瞳を微かに苦悩で揺らしながら、ただ黙って信の顔を見つめる… 「…別に俺はお前を責めてるワケじゃない…  なにしろお前が正式に警官になったころにはもう…  既に橘先生の事件は世間からも忘れ去られ――  お前は他の事件を担当せざる負えなくなっていただろうし…  それに何より警察組織なんてのは所詮今も昔も変わらず縦割り組織だ。  上がやれと言われた事を下はやるしかない。  今のお前がやりたくもない男の全裸死体の捜査をしているようにな…」 「信…」 「だがな…俺にとっちゃそんな事はどーでもいい…  お前がどう思おうがケーサツが当てにならない以上――  俺は俺のやり方で橘先生を殺した犯人を必ず見つけ出す。それだけだ…  …例えそれが――非合法とされるやり方であったとしてもな…」 信が俯いていた顔を上げ―― 強い意志を感じさせる瞳で仁の瞳を見つめ返す   「それでももしお前が俺の邪魔するというのであれば――  俺はお前を容赦しない。  例え…  お前と最終的に目指すところが同じであっても…だ…」 「………」 決意を滲ませた信の言葉に、仁は何も言い返せず… 仁が言葉もなく固まっていると、信が改めて口を開いた 「…理解していただけましたのなら、どうぞお引き取りを。  先ほども申し上げました通り、私も暇ではないので…」 信は深い息を吐き出しながらもう一度手をドアに向かって伸ばす… すると仁は信に何か言いたげに一瞬口を開きかけるが すぐにその口元をクッと引き締め、何時もの鉄面皮に戻ると 「…また来る。」と言い残して部屋を出て行き―― 「…もう来てほしくねんだけどなぁ~…ハァ…」 信の呟きは広い社長室に虚しく消えた… ※※※※※※※ 仁がWorld recoveryの入るビルを出てすぐに携帯が鳴り出し―― ピッ、 「…神崎さん。」 『よう真壁。どうだ?そっちの方は…何か進展はあったか?』 「…それが――当てが外れてしまいまして…」 『そうか…こっちもまるっきり収穫ナシだ。  とりあえず一度お互いに署に戻ってから作戦を練り直そう。』 「…分かりました。」 ピッと仁は通話を切ると、署に戻るために足早にその場を後にした…

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