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引っかかり。
―――駄目だ…
やっぱ何も出てこねぇ…
時刻は既に17時を過ぎ…
仁が此処に乱入してくるという多少のハプニングはあったものの――
今日やるべき仕事は全て終え…
後は葵の待つマンションに帰るのみとなった信だったが――
親父からの依頼を少し調べてから帰ろうと思い
信は一人…自前のノートパソコンと会社のデスクトップパソコンとを並べて繋ぎ
渋い顔をしながら二つの画面を見続ける…
―――親父を襲ったヒットマンは
用意の良い河野が掃除屋が完全に遺体を処理する前に
指紋や歯形…顔写真などを取ってくれていたおかげで
俺の方でも色々と調べる事は出来たが――
その結果ヤツはJohn Doe…
それも身元を特定するものが何一つない
“完璧な身元不明者”だという事が分かった…
なんせ政府のデータベースに侵入し――
何千万とある顔や指紋の記録の中から
ヤツの顔と指紋を照合してみたにも関わらず…一切ヒットしなかったからな…
ソレが何を意味するかというと――
あの使い捨てのヒットマンは個人で活動していたワケではなく
何かしらの組織に所属し
“意図的に存在を消された商品”であった可能性が非常に高いという事…
なにせ個人じゃここまで完璧に身元を消すなんて事は
ほぼ不可能に近いからな…俺でさえ個人でやるにはかなり厳しいだろう…
人一人の存在を消すのは容易な事じゃないからな。
恐らくあのヒットマンが所属している組織が何らかの方法で
“商品”の身元から組織に繋がらないよう
ヤツの記録を完全に消し去ったのだろう…
信が画面上を流れるように下に過ぎ去っていく数字や文字列を目で追いながら
時折何らかのコードを画面に打ち込んでは再び流れていく文字列を凝視する
―――そして俺の考えが正しかったらその組織は
他にもあのヒットマンと同じような名無しの権兵衛を量産し――
ヒットマンとして育成したのちに
“商品”として裏社会に“販売”をしている…
そう睨んで俺は榎戸組 からその組織に対し…
何らかのカネの流れがあったんじゃないかと思い
探ってはみたんだが――
信がパソコンを操作する手を止め
両手を頭の後ろに組んで渋い顔のまま二つの画面を睨みつける
―――なかなかどうして…
どんなに榎戸組所有のパソコンや
複数ある取引先の銀行のサーバーに侵入し
ファイルやフォルダの中身を探ってみても
俺の予想を裏付けるような情報は一切でてこないって言う…
「ハァ…まいったね…」
信は両手を後頭部で組んだまま
両足をドカッと高級なエグゼクティブデスクの上に乗っけて組むと
椅子の背もたれに寄りかかり…いよいよお手上げといった感じに天井を仰ぎ見た
―――榎戸組のカネの流れに関しては
他にも不自然なところはないかと色々と探ってはみたが――
やはり何一つおかしなところは出てこなかった…
…データ上でのカネの流れで榎戸組の動きが探れないとなると――
いよいよもって厄介だぞ?
なんせ“データ上には存在しない”って事になると昔ながらの紙媒体…
借用書や名簿なんかを金庫に入れて保管してるって事だろ?
…金庫破りとか…流石に専門外なんだが…
「ハァ~~~…ホントどーしたもんかねぇ~…ったく…」
信は天井を見たまま一人ごちる…
そこにふと信の脳内にある考えが浮かび――
―――いや、待てよ…?
“榎戸組という組織”ではなく“個人”…
つまりは榎戸組のすべてを指揮しているであろう人物…
榎戸組組長…榎戸 王凱 を直接探るってのはどうだ…?
――ただ…あの男はパソコンどころかケータイすら…
…いや、ケータイは今時珍しい“通話のみ”のやつ持ってたか…
それでもネットとは無縁の原始人だから
文字通り直接会って探んなきゃいけなくなるワケだが…
「………」
信は机の上に乗っけていた長い両脚を静かに下ろし…
再び椅子ごと正面に向き直ると
難しい顔をしながら腕を組んでなにやら考え込む…
―――会うのはまあいいとして…
それにしてもどーも引っかかるんだよなぁ~…今回の件…
王凱とは俺が若頭候補(若頭補佐)の時から
同じ若頭候補として何かと俺に突っかかって来ていたから
よく知っているが――
果たしてアイツが今回のような襲撃事件を企てるような真似をするだろうか…
なんたってアイツ――
筋金入りの脳筋バカだぞ…?
しかもアイツはバカだがバカなりに親父を慕う気持ちは
忠犬並みに本物だったハズ…そんなヤツが親父の襲撃を指示…?
なんかなぁ~…どーも他のヤツが糸を引いる気がしてならねんだが…
信は二台のパソコンの電源を落としながら帰り支度を始める
―――ま、その事も踏まえ…明日直接王凱のヤツに会って探ってみりゃいっか。
今ここでそんな事いま考えてもしょーがないしな。
とりあえず今日はもう帰って――
葵の顔見て癒されるとするかな…
信はノートパソコンを鞄にしまうと
自分の帰りを今か今かと待ってるかもしれない葵の事を想像し
ちょっとウキウキとした気分で社長室を後にした…
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