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窓ガラスに映るのは…
忍side
時刻は午前0時を回り…
部屋の電気が全て消され――辺りを暗闇と静寂が支配するなか…
眼下にポツポツと広がる街頭と民家の明かり…
それと時折道路を走り去る車のヘッドライトが瞬く光景を
眉を顰めた険しい表情で葵の義父…高峰 忍 は
黙ってそれを眺める
―――葵が謎の男と姿を消してからもうじき一週間…
未だに葵の行方はつかめないまま…一体どうなっているっ?!
「クソッ、」
パリンッ!と
忍は手に持っていたウイスキーの入った江戸切子のロックグラスを
苛立ちに任せて床に叩きつけ――
辺りに濃い琥珀色の液体と
細かな装飾の施されたクリスタルグラスの破片が飛び散る…
―――アレは私のモノだ…誰にも渡さない…!
ギリッ…と悔し気に歯噛みをする自身の顔が窓ガラスに映り…
忍はその顔を睨み返す
―――9歳だ…私はあれが9歳の頃から目を付けていた…
自身の会社が販売する教材ソフトを売り込むために訪れた小学校…
その校庭で友達と無邪気に遊ぶ
女の子と見紛 う程の美しい少年…葵の姿を見た瞬間
忍の中で今まで感じたことのないほどの貪欲で醜い欲望が沸き起こり――
忍の目は葵の姿に釘付けとなっていた…
―――欲しいと思った…何が何でも手に入れたいと思った…
今まで子供に対してそんな感情など抱いた事もなかったのに――
それでも私は葵を一目見た瞬間から自分だけのモノにしたいと思った…
どんな手を使ってでも…
窓ガラスに映る忍の顔は
葵を連れ去った男に対する嫉妬と憎しみで醜く歪む…
―――そして私は手に入れたのだ…
三年の月日を費 やし…
バレたら周りから犬畜生にも劣る行為と
罵られるような事に手を染めながらも、私は葵を手に入れた
葵を守るもの全てから葵を遠ざけ――
一人きりになり…私しか頼れるものがいなくなった
可哀そうで哀れな葵を…
忍の手が、窓ガラスに映り込む醜く歪んだ自身の顔を覆い隠す
―――…なのに…ッ、
何処の誰かも分からんようなヤツが
手塩にかけ、私好みに育て上げた私の葵を掻っ攫い――
今も何処かで二人でのうのうと同じ時を過ごしているのかと思うと
気がおかしくなりそうだ…っ!
窓ガラスに押し当てていた忍の手先が白み――
窓ガラスを引っかくようにしながらその手が徐々に握られていく…
―――許さない…絶対に葵を見つけ出し、私の元に連れ戻す…
そして葵を連れ去ったそいつには――
葵の父か…もしくは母親のような運命を辿ってもらうとしよう…
二度と葵の姿を見られないよう…触れられないように…
忍が窓に触れたままの手を強く握りしめる…
すると窓ガラスに再び自身の顔が映り込み――
―――私から――逃げ切れると思うなよ…?葵…
忍は窓ガラスに映る自分の顔にフッ…と歪んだ笑みを浮かべると
そのまま窓ガラスに映る狂気を宿した自身の瞳と静かに見つめ合った…
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