51 / 137

接触。

社に向かう道中… 迎えの車の中で何時もの様に梶がシステム手帳を開きながら 今日一日のスケジュールを隣に座る信に確認の為に読み上げる 「…12時に沢辺様主催の昼食会のあと  14時に各部門リーダーによる中間報告が行われ…」 「…昼食会…?」 窓の外をぼんやりと眺めていた信が ワンテンポ遅れて今聞いたスケジュールを聞き返す 「…はい。今日の昼12時に沢辺様主催の昼食会のご予定が入っておりますが…  何か不都合でも…?」 「あ…いや…何でもない。続けて。」 「では…15時に先日リモートで会談を行ったハワード氏が――」 ―――いかんな…最近は葵の一挙手一投足に振り回されっぱなしだ… 今朝、葵からの不意打ちほっぺにチュー事件を未だに引きずり―― 意識が明後日の方向に吹っ飛んでしまってた自分に 信が小さくに苦笑を漏らす… ―――ホント…葵のやることなすことがいちいち可愛くて…    葵の事を考えれば考えるほど、俺の調子は狂ういっぽう… 信は再び窓の外に目を向けながら ここ最近の自分が如何に葵中心で回っているのかを思い知る ―――葵に「好き」と言われたくらいで動揺してパンを焦がすわ    ほっぺにチューされたくらいでボーっとなるわ…    俺、今歳いくつだ…?29だぞ…    なのになに今時の小学生ですらしないような    初心(うぶ)な反応しちゃってるの?俺…    ああ…恥ずかしい… 「はぁ…」 「…社長?」 「ッ!?ごめんごめん…で、なんだっけ…?」 「…ですから――」 普段とはまるで違う… 朝から何を言っても上の空な感じの信の態度に 梶はひっそりと溜息をついた… ※※※※※※※ 時刻は正午を少し過ぎ… 信は昼食会の会場となるホテル内のイタリアンレストランに 秘書である梶と共に足を踏み入れ、早速主催の沢辺と挨拶を交わす 「沢辺さん…本日はお招きにあずかり光栄です。」 「斎賀さん!お忙しいところをよくお越しくださいました。」 会場はホテル内のレストランとはいえ―― 軽めの立食形式で行われている昼食会ゆえ 招待客は皆、普段着ているスーツ姿で昼食会に参加し それぞれ自由な場所で招待客同士、会話を楽しんでいる… 「…ところで斎賀さん…  お宅に委託している例のシステムの件なんですが――」 「ああ…その件につきましては現在テスト段階に入っていますので――  少なくとも依頼された日時までには仕上げる事が出来るかと…」 「そうですか!ソレを聞いて安心しま、」 「沢辺さん。」 信と沢辺が仕事の内容について話し合う中―― 突然第三者の声が割って入る 「!高峰さん。」 「!?」 ―――高峰…? 葵と同じ苗字を聞き… 信は一瞬その身体をギクッと強張らせると、自分の背後をゆっくりと振り返る… すると沢辺に高峰と呼ばれた長身で品のよさそうな男性が沢辺に近づき 信の目の前で沢辺と軽いハグをした後、親しそうに互いに握手を交わした 「わざわざと遠いところからよくお越しくださいました。高峰さん。  斎賀さん、コチラ教材用のソフトウェアなどの開発、販売を行っている会社  『hope』の代表取締役社長…高峰 忍さん。  高峰さん…コチラは『World recovery』の会社社長、斎賀 信さんです。」 「貴方があの…!…っ初めまして斎賀さん…お噂はかねがね…」 高峰は沢辺と握手をし終えたその手を今度は信に差し出し―― 信はその手を取り握手を返す 「…初めまして高峰さん…――噂と言うと?」 「いえ、大した事じゃありませんよ。  『World recoveryの社長…斎賀 信は、様々な雑誌の取材には応じるものの  その姿をカメラに撮らせた事など一度もない  正体不明でミステリアスな男性。』だと聞いていたので…  私もまさか『World recovery』の社長がこんなに若くてイケメンだったとは  夢にも思いませんでしたよ。」 「ハハハ…」と―― 高峰はその人のよさそうな整った顔で朗らかに笑って見せる 「ミステリアスだなんてそんな…  私はただ――カメラが苦手なだけですよ。」 「そうなんですか?こんなに若くて美男子でらっしゃるのに  カメラの前に姿を現さないだなんて勿体ない…  私が斎賀さん程の若くてイケメンだったら  もっと積極的にカメラの前に出て会社の宣伝をしますのに…  おっと――ところで沢辺さん…  ちょっと二人でお話ししたいことがあるのですが――よろしいですか?」 「構いませんよ?では斎賀さん…私はこれで…  それでは高峰さん、向こうの席でお話を伺いましょうか。」 そう言うと沢辺は高峰を連れてその場を離れていき―― ―――高峰……か…    まあ…珍しい苗字でもないし――ただの偶然だろう。    それより俺も適当に周りに挨拶を済ませたら    さっさと此処をでるかな… 信は軽く襟をただし、その顔に綺麗な愛想笑いを貼り付けると 他の招待客の元へ挨拶へと向かった…

ともだちにシェアしよう!