54 / 137

火花散る。

互いを怪しみ…玄関先で静かに睨みあっていた葵と仁だったが―― 信が何時までも自分の知らない相手に無防備にその身を委ねている事に 葵は妙に腹が立ち… それに耐え切れなくなった葵が先に口火(くちび)を切った… 「…誰だか知りませんが――  酔っぱらった信を此処まで連れてきていただきありがとうございます。  …後は俺が信をベッドまで連れて行くんで――  貴方はもう…帰って下さっても結構ですよ?」 冷めた口調で葵は仁に向かいそう言うと 一刻も早くその得体のしれない男から信を引き離したくて―― 葵は信に向かって手を伸ばす… しかし仁は信を支えている方の身体を半歩逸らして信から葵を遠ざけると 先ほどの葵と負けず劣らずの冷めた口調で言葉を切り返し―― 「…何を言ってる?誰だか知らないヤツにコイツを任せられる訳がないだろう…  というかお前は本当に誰なんだ?先ほど信が“葵”と言っていたようだが…」 「…“斎賀 葵(さいがあおい)”…信の弟ですがなにか?」 「……噓を言うな。」 「ッ…嘘なんか言ってない。」 「…俺はコイツを中学の頃から知っているが――  コイツに弟なんかいなかったハズ…  お前…何者だ…?」 「ッ、それは…」 葵が仁に返す言葉に詰まり… 狼狽えだしたその時 「最近出来ましたっ!」 「―――は?」 信がフラフラになりながら仁の肩に回していた腕を離すと ヘラヘラと笑い…仁の背中をバシバシと叩きながら葵の代わりに答える 「だーかーらぁ~…最近出来たんだってぇ~…俺のお・と・う・と!」 「…お前は…一体何を言って…」 「ッ、信っ、」 葵は信が酔っぱらっているせいで 自分が偽装された弟だって事をこの男にバラすんじゃないかと焦り… 慌てて信に近づこうとする… しかし信がフラつきながらも葵に手を伸ばしてソレを止め―― 「…フランスに今住んでいる俺のかーちゃんがさぁ~…  この間…在仏日本人の男性と再婚しちゃってぇ~…  そんでもってコイツはその男性の連れ子ってワケ!OK so far?」 「…そんな事…お前一言も――」 「…言う必要なんかねーだろ…?  じゃっ、そゆことでぇ~…ひとくんバイバイっ!またあそぼーねぇ~…  あおい~…ただいまぁ~…んふふ…」 「ッ!ちょっと信っ!」 信はフラフラと仁から離れ 倒れ込むようにして葵に抱きつき―― 葵は慌ててそんな信を抱き留める… 「もう…こんなに酔っぱらって…危ないでしょっ?!信…」 「ふへへ…」 信は葵にしなだれかかる様に抱きついたままヘラヘラと笑い―― 葵は呆れたような笑みを零しながらそんな信をギュッと抱きしめる… 「…」 広い玄関で抱き合あう二人を眺めながら一人… 手持無沙汰になった仁は少しだけその表情を切なそうに揺らすと 二人に背を向け…玄関のドアノブに手をかけながらその口を開いた 「…それじゃあ俺は帰るが――  葵とか言ったか…」 「…?」 仁から突然名前を呼ばれ… 葵は信を抱きしめたまま怪訝な顔をして仁の方を見る 「“今は”信の言葉を信じて弟って事にしといてやるが――  俺はお前の事を信用したワケじゃない…  くれぐれも…ソイツに変な事すんなよ…?じゃあな。」 そう言い残すと仁は玄関のドアを開けて出て行き―― ―――なに?アイツ… 葵は信を抱きしめる手に力を込めながら 仁の出て行ったドアを睨みつけた…

ともだちにシェアしよう!