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面影。

葵は足元の覚束ない信を支えながら何とか寝室へと辿り着く 「ッ信…ちゃんとしてっ!」 「ん~…むりぃ~…ふふっ、」 「ん、もうっ!」 寝室のドアを開け… 二人してヨロヨロとよろめきながらもベッドまで辿り着くと 葵は信の眼鏡を外してサイドテーブルにそっと置き―― 自分の肩に回させた信の腕を離して信をベッドに寝かそうとする… しかし葵の首の後ろを通して肩に回された信の腕は葵から離れず… それどころか葵の肩に回した信の腕は まるで倒れるならお前も道連れだと言わんばかりに そのままグイッ!と強く葵の身体を引き寄せ―― 「ッ!?ちょっ、」 信に引っ張られる形で二人はボフンッ、、とベッドの上へと倒れ込み… 信はクスクスと笑いながら葵の身体を抱きしめる 「ッちょっと信…、ふざけないで…っ、」 「ふざけてないですぅ~…ククッ…いいじゃん別に…  このまま二人で寝ちゃおーぜ…」 「っダメだって信……せめてスーツ脱がないと…皺になっちゃうよ?」 葵は自分の身体に緩く(まと)わりついてくる信の長い腕の中から 何とか離れようと試みるも すでに微睡みの中に落ちかけ…力もそんなに入っていないはずの信の腕は なかなか葵を離してくれなくて―― 「………ねぇ信…離して…?俺まだ風呂にも入ってないし…」 「ん~…ど~しよっかなぁ~…ふふ…、」 信は葵を抱きしめたまま夢見心地な様子で 葵の顔にかかる前髪をそっとその手で左右に払いながら微笑む 「…信…?」 『斎賀くん…』 微睡んで霞がかった信の目に… 何故か目の前にいる葵の顔と椿の顔がダブって見え―― ―――つばき……さん… 信がその瞳を嬉しそうにスッ…と細め… まるで相手を慈しむかのような表情で微笑むと 葵の前髪を(いじ)っていた信の手が、今度は優しく葵の頬に触れ… 「信…?どうし…」 「…つばきさん…」 ―――え…? 信が自分の顔を見ながら呟いたその名前に 葵の心臓がドクンッと跳ね―― その表情は驚愕と困惑で強張る… 「っなん…」 「ど…して…  どうして……俺に言ってくれなかったんですか…?椿さん……」 優しく微笑んでいたはずの信の顔が 葵の見ている目の前で見る間のうちにクシャ…と悲し気に歪み―― 「…言ってくれてたら……頼ってくれてたら…っ、  俺は…無理やりにでもあの時貴女を―――………、」 葵の頬を撫でながら…苦し気に呟いた言葉と共に信の瞼が徐々に閉じていき… 最後に閉じた瞼の隙間から一筋の涙がツゥー…と零れ落ちると 信はそのまま意識を失い… 「………」 ―――どうして… 葵の指先が信の顔に伸び… 信の高い鼻筋をゆっくりと伝う涙をス…と優しく拭う… ―――どうして信の口から母さんの名前が… 葵は拭った信の涙で濡れるその手で そのまま自分の頬に触れている信の手をそっと包み込むと 困惑で揺れるその瞳で、信の顔を見つめ続けた…

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