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お呼ばれ。

ピッ、 「…久米さん…どうかしましたか?」 葵がいる手前…流石に“親父呼び”は気が引けた信は 他人行儀に親父の事を“久米さん”と呼び―― 久米もその事で何かを感じ取ったのか 少しトーンを落として信に尋ねた 『信…もしかして――“弟さん”が近くにいるのか…?』 「ッ!?どうしてソレを…」 ―――親父にはまだ…葵の事は何も話してはいないのに… 『忠から聞いた。』 ―――ああなるほど… 『…それより信…  お前に話があるんだが――今日、大丈夫か?』  「今日…ですか…?」 「…?」 信は言い(よど)みながらチラリと葵の方を見る 『そうだ。“例の件”も含めて…  お前にちょっと聞いてもらいたいことがあったんだが――  何だ…やっぱり今日は都合が悪いか?』 「ッ、いえ…そんな事は――」 『だったら――電話ではなんだし…久しぶりに俺の“家”で話さないか?  …ついでにお前の“突然出来たという弟さん”にも会ってみたいから――  その弟さんも連れて…一緒に俺の家に来い。』 「え…弟も…ですか…?それは――ちょっと…  というか今“家”に居ると(おっしゃ)りましたか?」 隠れているハズの久米が今、自分の家に居ると言った事にも驚きだが―― なによりその久米が葵に会ってみたいと言ったことに対し 信は動揺を隠せない 『ああ…子供たちの様子が気になってな。  明日にはまた隠れ家の方に戻るが――  その前に一度…忠の言う物凄い美人さんらしいお前の弟さんの顔を  一目見ておきたいと思ってな…駄目か…?』 「ッ駄目…ではないですけど…葵は――」 『分かってる。お前の“隠しておきたい立場”は  ちゃんと弟さんの前では隠しておくから………な?』 「………それでしたら…」 『よしっ!ならすぐに来い。待ってるぞ。』 プツッ…ツー…ツー… 年甲斐もなく妙にウキウキした様子の久米の声を最後に 通話は一方的に切れ―― ―――まったく…相変わらず強引な人だな。あの人は…    ま、そーじゃなきゃヤクザの組長なんかやってらんないんだろーけど… 信は呆れた様子でスマホ画面を見つめた後 溜息と共に葵の方へと向き直ると、その重い口を開いた 「…葵…今の電話相手からの用事で――  急遽相手の家に行くことになったから…残念だが今日のデートは中止だ。」 「………そう……それなら仕方ないね…  俺――家で大人しく待ってるから…気にしないで行ってきて?信…」 葵は酷く落ち込んだ様子で俯くと、ひっそりと溜息をつく… そこに信が冷めかけたコーヒーを一口啜った後、話を続け―― 「気は進まんが…先方はお前にも俺と一緒に来てほしいってさ。」 「え…俺も…?なんで??」 葵はパッと顔を上げ 不思議そうに信の事を見つめる 「何でもさっきの電話の相手は忠からお前の事を聞いて――  是非お前に会ってみたいんだと。」 「忠って……じゃあさっきの電話の相手は…」 「そ。忠の親父さん。  まあ…用事って言ってもお前を連れてきてもいいっていうくらいだし…  時間的にもそんなにかからんだろうから――  用事が済んだら…二人でドライブにでも行こうか。  さっき言ってた海まで…」 「ッ……うん!」 信の言葉に… さっきまで沈んでいた葵の表情がまるで嘘かのように一気にパァッ!と華やぐと 葵は嬉しそうに目の前の朝食を食べ始め―― ―――まあ…聞かれて困る話なら    流石に葵を席から外させるだろうし…大丈夫だろう… 信は手に持ってたコーヒーカップをテーブルの上に置き 朝食を食べている葵の姿に目を細めながらフッと微笑むと 残りの朝食を食べ始めた…

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