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嫌な邂逅。

「…凄い…都会の真ん中にもまだ…こんな場所があったなんて…」 葵は目の前にそびえ立つ巨大な門扉と―― その向こう側に見える木々を見ながらポツリと呟く 「フフッ…凄いだろ?  俺も初めて此処を訪れた時はこの門見ただけで圧倒され――  ビビリまくったもんだ…」 信の住むマンションから車で約一時間… 大小様々なビルが立ち並ぶ都会の一等地の一画に 周りを高い塀で囲まれ… その中はよく手入れされた木々が生い茂る森のような場所があり―― 信の運転する車はその森を囲う高い塀の切れ目にある 黒い立派な鉄製の門の前に停車すると 信はパワーウィンドウを下げ 近くに設置されているファンクションユニットアクシィのインターホンを押した 『…はい。どちら様でしょうか?』 「斎賀です。おや…、っ久米さんに呼ばれて来ました。」 『…少々お待ちください。』 ガチャッ……ビー、という音と共に 目の前の巨大な門が徐々に開いていき―― 信の運転する車はゆっくりとその門の中へと入っていく… 「…これ…まるで映画のワンシーンみたい…」 葵が門の先に広がるその光景に感嘆(かんたん)の声を漏らす… 「…だろ?」 それもそのはず… 門を抜けた先には長い一本の道が真っ直ぐに伸び… その道の左右に一定間隔に植えられた木々の枝が 道の中央上空で綺麗に折り重なり… まるで緑のトンネルの中を走っているようその光景に 葵は「わぁ…」と呟きながら目を輝かす… 「春に来るともっと凄いぞ?  左右の木々とこの道路一面…ピンク一色に染まるからな…  ちょっとしたホラーだ。」 「信って――情緒がないね。」 「そうか?桜吹雪の中を車で走ると  フロントガラスとかに桜の花びらがくっついたりして  わりかしメンドクサイし…  しかも黄砂の時期とかにも重なるから余計に――」 「ハァ…もういいよ…」 信の言葉に葵は呆れ―― 軽く溜息をつきながら窓の外を眺め続ける… すると緑のトンネルの終わりに突然視界が開け―― 「うわぁ……」 目の前に突如として現れた大きな屋敷を前に… 葵の視線は釘付けとなる… 「…ホントに凄い…  こんな立派なお屋敷…映画かドラマくらいでしか見た事ないよ…俺…」 そこにはまさに豪邸と呼ぶに相応しい… 重厚感漂う一軒の日本家屋が静かに佇んでおり―― さっきから自分の隣で口が開きっぱなしの葵に 信は苦笑を漏らしながら屋敷の来客用駐車スペースに車を停めようとした… が ―――ん…?あの車―― 信の視線の先に――一台の黒塗りの高級車が停まっており… 信は怪訝な表情を浮かべながらその車の隣に自分の車を停める… ―――俺の他にも来客が…?    でもそんな事…親父は一言も―― 「…葵…着いたぞ?」 「う……うん…」 信は隣に停まる車を不審に思いながらも車のエンジンを止め 二人は車から降りて屋敷の玄関へと向かう… そこに屋敷の玄関の引き戸がガラッ…と開かれ―― 「!…おや…これはこれは若頭…  こんなところでお会いするなんて…奇遇ですなぁ~…」 「ッ…御手洗(みたらい)さん…お久しぶりです…  貴方も――“久米さん”に呼ばれて…?」 「!…まあ…そんなところです…  ところで――そちらの方は…?」 御手洗が首を傾げ… 信の後ろに隠れるようにして立っていた葵を舐めるように見つめる 「…ッこれは弟の葵です。  葵、挨拶を…」 「っは…初めまして…弟の葵です…」 「ふん……これはまた――随分と綺麗な弟さんですねぇ~…  初めまして葵さん…  それにしても初耳ですよ。  貴方にこんな綺麗な弟さんがいらしたなんて…  今度是非…お兄さんを含めた三人でお食事でも…」 御手洗の手がスゥ…っと葵に伸び―― 葵がソレにビクッと肩を揺らしてその手から逃げる様に身を引きかけたその時… 「御手洗さん。」 信がソレを阻止する形で御手洗の手首をやんわりと掴むと その手をゆっくりと下ろさせる… 「…コイツ――極度の人見知りなもんで…その辺で許してやってください。」 「そうなんですか?それは失礼を…  では、私も急いでおりましたのでこれで…」 そう言うと御手洗はガタイの良い… ダークスーツを着たお付きの人二人を引き連れて 信たちの横を通り過ぎていき―― ―――ったく…最悪だ…    よりにもよってアイツに葵を見られるなんて… 信は苦々しい思いで自分たちの横を通り過ぎて行った御手洗の後姿を見送ると 葵の方へと向き直る 「さて…と――  それじゃあ気を取り直して入るとしますか!」 「…信…今の人は?」 「ああ…ただの知り合いだ。気にするな。  それよりもし――俺がいない時にアイツに会うような事があったら…  全力で逃げろ。」 「え?何で??」 「いいから逃げろ。分かったな?」 「わ…分かった…」 「よし!それじゃあ行くぞ?」 そう言うと信は緊張する葵の腰に手を添え 改めて久米家の玄関の戸をくぐった…

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