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パッとみヤジロベエ。

―――御手洗 壮一(みたらいそういち)…    アイツはこの界隈でも有名な“男色家”だからなぁ…用心しないと… 「…?」 「ハハ…」 信が不安げにチラリと葵の方を見やれば 葵とバッチリ目が合い…信は気まずそうに乾いた笑みを浮かべる… ―――葵が俺の弟と思ってるうちは流石に手は出してこないだろうが――    それにしても開幕早々…嫌な相手に出くわしちまったもんだ… 信がその表情を若干顰めながら小さく溜息をつき… 葵と二人で広い玄関の奥へと進むと 土間から続く廊下の向かって右側から紺色の万筋着物を着た年配の女中が ススッ…と姿を現し… 「…お待ちしておりました斎賀様。」 「五十鈴(いすず)さん…ご無沙汰しております。久米さんは?」 「旦那様でしたら奥の客間の方にいらっしゃいます。  ささ、お召し物を履き替えてどうぞコチラへ…」 そう言うと五十鈴は二人の前にスリッパを揃えて用意し 信と葵はソレに履き替えると、五十鈴の後について歩く… 「…旦那様の他にも忠坊ちゃんと智美(ともみ)お嬢様が  それはそれは斎賀様がお越しになるのを首を長くして待っておいでで…」 「っ!?お嬢…じゃなかった智美お嬢さんも……今…コチラに…?」 信の表情がピキッと固まり―― 廊下を進む信の足が一瞬止まりかける… 「ええ…丁度昨日寄宿舎からお戻りで――」 「信っ!」 「ッ!?」 スパァーーーンッ!!!と―― 長い廊下を進む信たちの後ろで いきなり(ふすま)の戸が勢いよく開く音がし… それと同時に信の名を呼ぶ少しハスキーだが女の子のものと思われる声が 廊下に大きく響き渡り 信と葵が何事かと後ろを振り返ると そこには廊下の真ん中で仁王立ちする一見すると性別が分かり辛い… 中性的で綺麗な顔立ちの人物が 勝気な笑みを浮かべて信の事を見ており―― 「やっと来たか…待ってたぞっ!信っ!」 「っ…智美…お嬢さん…、」 信はその人物を見た途端 顔を引きつらせたまま後ろに後ずさろうとするが 信に智美と呼ばれたその人物は、そんな信めがけて走り寄り―― 「信っ!!」 「ちょっ…わっ、、」 ガバッ!と、智美は勢いよく信に抱き着き 信は少しヨロめきながらもそんな智美を抱き留める 「ッちょっとお嬢さん…危ないでしょう…っ、」 「逢いたかった信…んフフ~…信の匂い…」 智美は信に強くしがみつきながら、信の胸板にグリグリと顔を押し付け 信の匂いを堪能する… 「………」 そこにムッとした様子の葵が 智美の身体を抱き留めている信の腕をグイッ!と強く引っ張ると 智美をジットリとした目で見つめながら 普段聞いた事のないような低い声で信に尋ねた 「信……“コレ”、誰?」 「こ…“コレ”っ!?」 ―――お前っ、なんてことを… 信の腕をギュッと強く自分の方に引き寄せながら むくれっ面で尋ねてくる葵に信はたじろぎ、言葉に詰まる… そんな中…信の胸に顔を埋めていた智美がその顔を上げ やはりムッとした様子で葵の方を一瞥(いちべつ)すると 口角をニッと上げ―― 「信の恋人ですが、何か?」 「はあっ?!」 「ッちょっとお嬢っ!  誤解を招くようなことを他の人の前で堂々と言うのはやめてくださいと  あれほど――」 「誤解?何を言うか…  今はまだ信は認めてはいないが――信はきっと私の事を好きになる。  そしていつかは私の恋人になるんだ。  誤解を与えるような事は何も言っていない。」 「フフンッ!」と鼻を鳴らし―― 勝ち誇ったような笑みを浮かべながらそういう智美に 信は眩暈(めまい)を覚える… そこに信の腕を引き寄せながら葵が呆れた様子で口を開き―― 「信が認めてもいないのに恋人って言い張ってるの?ばっかみたい…  そんなのただの思い込みじゃん。  ストーカーと変わんないよ。怖っ…」 「はあっ?そもそもお前は誰だ…さっきから…  何故信の腕を掴んでいる?恋人である私の許可なく信に触るな。離せ。」 「信はアンタの恋人じゃないんだから離す必要なんかないでしょ。  それよりそっちこそ信から離れたら?信が嫌がってるでしょ?」 「お…おい……お前ら…?」 「お前の目は節穴か?コレのどこが嫌がっていると…」 信を挟んで突如として言い争いを始めた葵と智美に信は途方に暮れ… そんな三人の様子に微笑みながら、五十鈴が柔らかい口調で話しかける 「あらあら斎賀様…相変わらずおモテになるようで…」 「ハハ…ご冗談を…」 引きつった表情の信の口からは、もはや乾いた笑いしかおきない… 「それよりも旦那様をお待たせするといけないので――  そろそろ参りましょうか。」 ―――このままで行けと申すか…    五十鈴さん…アンタ相当に鬼だな。 右腕を葵に 左腕を智美に引っ張られ―― 二人が信を挟んで睨みあいをする中… 三人は五十鈴に続いてまだ先の続く廊下をゆっくりと歩き始めた…

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