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親の言う事は…
「…旦那様。斎賀様とそのお連れの方を案内いたしました。」
「ああ五十鈴…ご苦労だった………な?」
「!?ブッ、、あはははははっ!信…なんだソレっ!!あははっ!」
五十鈴により通された客間に入ってきた信たちの方を見て
久米は絶句し、忠は大爆笑する
それもそのはず…
葵と智美が信を挟んでむくれっ面で信の両腕を互いに引っ張り合い…
そんな二人に挟まれている信本人はというと虚ろな目をし
まるで悟りでも開いたかのような顔をして立っているのだから…
「…どういう状況だ?コレは…」
「…聞きたいのは俺の方です…」
「キャバ嬢に集 られてるオッサンみてぇ~…
プフッ…あははははっ!」
忠はもう笑いが止まらず
腹を抱えながらソファーの背もたれに踏ん反り返り――
信はそれはそれは深い溜息をつきながら項垂れる…
それを見かねた久米が、信に助け舟を出した
「…斎賀君…とりあえずソファーにでも…
智美、いつまで斎賀君にくっついている気だ。離れなさい。」
「え~…」
「えーじゃない。ホラ、そちらのー…」
久米が信の腕に両手でしがみつき――
信の陰に隠れるようにして立つ葵に視線を移す
「…葵です…」
「葵君も…
二人ともいい加減斎賀君を離してあげなさい。斎賀君が困っているだろう?」
「…」
「…」
久米に促され…
葵と智美は渋々ながら掴んでいた信の腕をようやく離すと
信はホっとした様子で今まで二人に掴まれていた腕を擦りながら
久米に礼を言った
「…助かりました…」
「いいんだ。それよりもホラ、ソファーに座って。」
「…では、お言葉に甘えて…」
信は恐縮しながら久米の対面側にあるソファーに腰を下ろすと
葵と智美も再び信を挟んで席に着き――
「ハァ~…智美…」
「…何よ父さん…別にいいでしょ?信の隣に座るくらい…」
智美は不貞腐れながらもしおらしく上目遣いで久米の事を見つめ――
久米も「やれやれ…」とぼやきながら改めて葵の方を見た
「ところで斎賀君…彼が――例の…?」
「ええ…弟の葵です。」
「えっ…コイツ…信の弟っ?!」
「コラ智美っ!人様に向かってコイツとはなんだ!」
「ッご…ごめんなさい…」
「プフッ、怒られてやんの~」
「ッ…忠…」
さっきとは打って変わり…
智美が凄味を利かせた視線で横の一人掛けソファーに座る忠を睨みつける
「…しかし本当に綺麗だな…
初めまして葵君。俺は久米 勝治郎…斎賀君の古い友人だ。」
「…初めまして久米さん…斎賀…葵です…」
「フフ…そんなに緊張しなくていい…ところでキミは今、幾つなんだい?」
「…18…です…」
「18っ?!俺より一個上かよ…てっきりタメかと思ってた…」
「…私より二つ上…」
葵の歳を聞き、忠と智美が予想以上に驚いた表情を見せる…
そこに久米が目の前に置いてあった紅茶を手に取り
鋭い視線でもう一度葵の顔を確かめるように見つめながら紅茶を一口啜ると
少し言いづらそうにその口を開いた
「ところで…折角来てくれたところ葵君には申し訳ないんだが――
俺はこれから斎賀君と二人で話があるので…
葵君と忠…それと智美の三人には席を外してもらいたいのだが――
構わないか?」
「え…」
「…俺は構わないけど――話ってやっぱ…さっき此処に来たヤツの事…?」
「…忠…大人の事情に首を突っ込むんじゃない。」
「けどよぉ~…」
「…なに、話は一時間ほどで終わる。それまでの間――
忠と智美…お前たちは葵君にこの屋敷の中を案内して差し上げなさい…
くれぐれも“この屋敷からは出ず”に――な。」
「…チッ…分かったよ…ホラ葵、行くぞ。」
「ッでも…、」
葵は不安げにその瞳を揺らしながら隣に座る信の方を見る…
すると信は軽く葵の手を握りながら優しく微笑みかけ――
「…大丈夫。すぐ済むから…
忠たちと一緒にこの屋敷の中を見てくるといい。」
「………信が…そういうのなら…」
そう言うと葵はさっき座ったばかりソファーから渋々立ち上がり
続いて忠と智美も席から立つと三人は客間を後にし
それを見届けた久米は信の方へと視線を向けると
さっきまでの穏やかな顔が嘘かのように
その表情を険しくしながら、改めてその口を開いた…
「…さて――信…さっき忠が言ってたヤツの事も含めてなんだが――
それよりもお前の弟さん…葵君……だっけ…?
どうも彼――とんでもない事に巻き込まれているみたいだぞ…」
「ッ葵が!?…何かの間違いなんじゃ――」
「…だといいんだが――これを。」
久米が静かにソファーから立ち上がり――
後ろの棚から何やら一枚の紙を持って戻ってくると
目の前のコーヒーテーブルの上にそれをスッと置き
信が怪訝な顔をしながらその紙に目をやる…
「…一昨日井上があるバウンティハンターを締めあげた際に
持ち帰ったものなのだが…」
「ッ!?コレは…っ、」
その紙に印刷されていたものを見て
信は思わず言葉を失った…
※※※※※※※
「あ~あ…追い出されちまったなぁ~…
折角面白そうな話が聞けると思ったのによぉ…」
「…仕方ないだろう…信を此処に呼んだって事は――
十中八九“あっち側”の話なんだろうし…」
「…?“あっち側”の話って?」
葵がキョトンとした顔をしながら忠と智美を見やる
「ッ!あっ…いや~…何でもない。コッチの話…」
「…?」
「それより――今からどっか行かね?」
「え…でも…さっき久米さんが屋敷から出るなって…」
「いいっていいって!そんなの構うこたねーよ。
…第一…こんな古臭い家ん中見たって面白くも何ともねーだろ?」
「けど――」
「すぐに帰ってくりゃいいんだしさ…どーせこの近所見て回るだけだし…
な?いいだろ?」
「…忠がそこまで言うんなら…ちょっとだけ――」
「よっしゃっ!そーこなくっちゃ!智美、お前はどーする?」
「…私は此処に残る。
お前らと行ったところで面白くもなんともないしな。」
「チッ…相変わらずつれない妹だな…お前は…
まあいい…それじゃあ行くぞ葵!俺お勧めのパン屋さんを教えてやる。」
「…パン屋さんって…なんかカワイイ…」
「うるせー、ホラ行くぞ!」
そう言うと忠は葵の手を掴み…
二人は屋敷から出る為に玄関へと向かった…
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