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バウンティハンター。

差し出されたB5サイズの紙に印刷されていたもの… それは上半分には少し不鮮明な人物の顔写真が… そして下半分には内容が書かれているというもので―― 「葵…」 信がその印刷された顔写真を見ながら小さく呟く… そこに印刷されていた顔写真は恐らく… 葵が高校入学当初に生徒手帳用に撮ったと思われる 背景が青一色の証明写真のようなもので 髪型は今とは違い、短く…サッパリとしているのだが―― その表情はどんよりと暗く… その瞳はまるでこの世の終わりでも見ているんじゃないかと思われるくらい 絶望で黒く淀んでいて… 「ッ、」 ―――この写真が撮られる以前からお前はもう…苦しんでいたのか…? 葵の瞳の内に宿る絶望を感じ… 信は胸が苦しくなる… 「葵君…だよな?そこに印刷されている写真…」 「ええ…でもどうしてコレをバウンティハンターなんかが…」 信は顔写真の下に掲載されている文字を読み進める… するとそこには “この写真の少年に関する有力な情報には百万…  身柄を確保したものには五百万の懸賞金を出す。” といった内容のものが記されており… 「一体誰が…こんな…、ッ、」 そこまで呟いて、信はハッとする ―――父親か…っ! 今葵を探している人物と言ったら葵の父親しか思い当たらず 信はその表情を険しくしながらギリッ…と歯噛みする… ―――遂に自分の子の情報を得る為に懸賞金を出してきたか…    しかも裏社会のバウンティハンターを頼っている辺り    相当追い詰められているように見える…    なんせアイツ等はカネの為なら手段を択ばない無法者の集まり…    人探しでアイツらを頼ろうものなら    アイツ等が探している人物を先に見つけた際…その人物を盾に    懸賞金の値段を吊り上げてくるといった話はよくある事で――    更にアイツ等は探してる人物が美形だったりすると    その人物をレイプしたりしてソレを動画に収め…    ソレで相手を脅して更なる金銭を要求するといった    質の悪い事でも有名―― 「ッ!」 ―――そんな奴らに今…葵が狙われていると…? 信は思わずコーヒーテーブルに置かれた紙をグシャリと握りしめる…     「…その文面の最後に記されている交渉用のURLにアクセスしてみたんだが――  どうやらそのサイトは今は封鎖されているらしい…  恐らくその懸賞金を出した相手は  裏社会のバウンティハンターに頼るのは危険と気づいたようだな…」 「ッそれでも…っ、一度こうしてビラまで出回ったりしてしまったら…  アイツらは暴走して――葵に何をしてくるかわかったもんじゃない…  葵の父親のヤツ…一体何考えて…」 紙を握りしめながら険しい表情でそう呟いた信に 久米が紅茶を一口啜ってから静かにその口を開く 「…“葵の父親”…  その懸賞金のビラをばら()いたのは葵君の父親だと…?  ――って事はやはり…」 「…ええ…葵は俺の弟でも何でもない…  駅で自殺しようとしていたところを俺が拾ったんです…」 「…そうか…  相変わらずお前は――この世界には似つかわしくない男だな…  まあお前が葵君を拾ったって事は、実は俺が襲われた日の翌日…  片瀬から聞いていて知ってはいたんだが――」 「そう…だったんですか…」 「ああ…まあなんにせよ、この懸賞金のビラに関しては  昇竜会(コチラ)でも見かけたら組員達に回収するように言っておくが――  暫くは葵君から目を離さない方がいいだろう…  また葵君の親父さんが何をしてくるか分からないしな…」 「…そのつもりです。  ところで今朝――御手洗とすれ違ったのですが…」 「!ああ…実は今日お前を呼んだのは他でもない…  その事も含めてお前に聞きたい事が――」 ※※※※※※※ 「…それにしても…  こうして外歩いてると忠んちってホント異次元なんだなって…」 「あ?なんで…」 「だって…高い塀の中はあんなに緑が生い茂っていたのに  一歩外出たら高層ビルとか並んでんだもん…  まるで忠んちだけ何とか保護区みたい…」 「あははっ!まあ確かにな。  俺は生まれた時からあの保護区で育ってきたから違和感ねーけど…  やっぱフツーは違和感はあるもんなんだろーな。」 忠と葵は大通りから少し外れた脇道の歩道を 他愛もない話をしながらゆっくりと並んで歩く 「…ねぇ忠…今から行くパン屋さんって何がお勧め?」 「ん~…どれも美味しいけど俺一押しはやっぱアンパンかな。  薄皮で包まれたパン生地の中に餡がギッシリ入ってんの。美味いぞ~…」 「…アンパンかぁ…俺…餡子ちょっと苦手…」 「そっかぁ~…  じゃああまおうが一個丸ごと入ったイチゴジャムパンなんてどうよ。  これもスッゲー美味いぞ。」 「!それ美味しそう…じゃあソレにしよっかな…」 「フフ…」と葵は微笑みながらまだ見ぬジャムパンに思いを馳せる… そこに隣を歩いていた忠が「お、見えてきた!ホラあそこ。」といいながら ビルに挟まれたこじんまりとした一軒の建物を指さす ―――…ん?あそこに居るのって…もしや… 葵が忠の指さした建物の方に視線を向けると 丁度店の中からグレーのスーツを着た長身の男性が一人… スッと出てきたのが見え―― ―――やっぱりそうだ…アイツ…あの嫌なヤツ… 葵が途端にその瞳に不機嫌な色を宿しながら長身の男性を見やると 隣を歩いてた忠が「ん~…良い匂い~…」と呟き 「!…お前…」 その呟き声が聞こえたのか 男性はその見た目に似つかわしくないパンの入った紙袋を持ったまま 葵たちの方を振り向く すると葵がその男性の方を見つめながら口を開き―― 「…昨日ぶり“ひとくん”。」 「…お前に――そんな呼び方される覚えはないんだが…」 「…だってアンタの名前知らないんだもん。“ひとくん”。」 「………」 不機嫌そうな表情のまま葵は仁を見つめ―― 仁の方もその無表情に微かな不愉快を乗せて葵を見つめる… そんな中…突然道の真ん中で険悪な空気を醸し出しながら見つめ合う二人に ついていけない忠は一人狼狽える… 「あの~…葵さん…?どうした?急に…怖い顔しちゃって…」 「ん?この人“ひとくん”。信の敵。」 「え?」 「…おい。」 仁は今度こそあからさまにその顔を顰めながら葵を見つめる 「だって信が言ってたもん。『超天敵だ。』って。」 「…信のヤツ…」 仁は皺の寄った眉間に手を当てながら深い溜息をつき 葵は何故か「フフン!」と勝ち誇った表情を見せる… そんな中…一台の黒のハイエースが速度を落として路肩に停まり―― 「…おい。あそこにいんのってまさか――」 「…間違いない。この懸賞金のビラのヤツだ。」 「ラッキィ~!こんな簡単に見つけられるなんて…  さっさと捕まえて金貰おうぜ。」 「…まあ待て。此処は昇竜会のテリトリー…下手な事したら――」 「だ~いじょうぶだってぇ~…  パッと捕まえて、パッと立ち去りゃいいんだしさっ!」 「…それもそうだな。よし、行くぞ。」 「…いい加減落ち着けって二人とも…」 事情が全く掴めていない忠が二人をなだめる… そこに突然 キキキキキッ!!! 「ッ!?」 「え…何っ?!」 三人のすぐそばにハイエースが急ブレーキをかけて停まると 中から黒い覆面を着けた三人が勢いよく飛び出し―― 「ッ!ちょっとやだっ、、離してっ!」 「葵っ!」 「…ッ!」 一人が突然葵の腕を掴むと そのまま葵を開かれたハイエースの後部座席に引きずり込もうとし 忠と仁が慌ててそれを止めようとするも 残りの二人がバッと忠と仁の前に立ちはだかり―― 「ッ邪魔だテメーらっ!!」 ヒュッ、、と忠の拳が覆面の顔面に向かって風を切って勢いよく伸びる… しかしその拳が覆面の顔面を捉える寸前で覆面はスッ…と(かが)み―― 「ッ!?」 一瞬の隙をつき覆面は忠の足を片足で払い 忠は為す術なく背中から地面に叩きつけられる 「ぐっ、、」 「ッ!!」 仁がソレに気を取られた隙に、もう一人がハイエースに戻ろうとするが―― 「ッ、待てっ!」 それに気づいた仁の手が覆面男の覆面に伸び、ガッとその覆面を掴むと 仁は勢いよくその覆面を背後から引っ張る すると覆面は呆気なく脱げ―― 「――ッ!お前…」 「…ッ、」 覆面の下のその顔を見た瞬間、仁は凍り付く 「ッ何やってるっ!早く戻れっ!!」 「っ嫌だっ、、助けて信っ…助けて…っ!!」 「ッ、、あ、おい…っ!」 葵が泣きながら車の外に向かって手を伸ばすが 残りの二人がハイエースに戻りながら葵を押さえつけると 無情にも車のドアは忠と仁の目の前でバンッ!と閉まり―― 「出せっ!」 ハイエースは激しいエンジン音と共に急発進をすると あっという間に大通りに向けて走り去っていく 「ッ葵…っ、」 「………」 後に残された二人は茫然とその場に立ち尽くした…

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