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兄。

信の運転するマセラティは 5分もしないうちに忠の言っていたパン屋の前に到着するが 騒ぎを聞きつけたのかパン屋の前には既に少なからず 人が集まり始めていて―― 「チッ、」 それを見て信は軽く舌打ちをすると パン屋の前の路肩に車を停め、苛立った様子で車から降り立つ… するとすぐさま血相変えた忠が信に駆け寄り 「信っ!」 「ッ忠…葵はっ!?」 「それが…覆面を着けた奴らに…」 「信。」 「ッ!?」 集まり始めた人だかりの中からヌッ…と現れた長身の男性に、信は驚く 「ッ仁……何でお前がっ、」 「…此処のベーカリーの常連だ。  それよりお前の弟を連れ去ったヤツの車のナンバーと特徴は覚えた。追うぞ。」 そう言うと仁は何食わぬ顔で信の車の助手席へと乗り込み―― 「おまっ、」 「ッ!なら俺も一緒に――」 「駄目だっ!」 「ッ、」 仁に続いて車に乗り込もうとする忠を信は鋭い声で制す 「…お前は親父さんの所に戻れ。」 「ッ何でっ、、俺だって絶対役に…」 「戻れ。」 信は刺すような冷たい視線で忠を見つめながら 相手に有無を言わせない雰囲気を纏い、忠に向かってそう言うと 忠はもう…それ以上は何も言えず… 「…葵を見つけたらちゃんとお前にも知らせるから…  だから今は家に戻れ。な?」 「ッ……分かった…」 忠は納得できず…不服そうではあったが 信の言葉に大人しく(うなず)き… それを見た信は少し安心した様子で運転席へと乗り込むと 人だかりの中に忠を残して車を発進させる 「…逃げた車の方向は。」 「大通りに出た後、信号を左折したのが見えた。だから後を追うのなら――」 「…分かった。」 「ッ!?」 信はそう言うとギアを入れて車を加速させたかと思ったら いきなりサイドブレーキをギッと引きながらハンドルを右に切る… すると車はその場で綺麗な180℃サイドターンを決めると そのまま何事もなかったかのように大通りに向けて走り出し―― 「…乱暴だな。車の通りが少ない道路で助かったが…」 「…いいだろ?別に……で、車の特徴は?」 「…黒のハイエース。ナンバーは○○303 ほ21-24。」 「…何故ケーサツに通報しなかった?…お前の仕事だろーが…」 「ッ…それは…」 その一言に… 今まで無表情だった仁の表情に初めて動揺の色が浮かび、言葉を詰まらせ… 信はそんな仁を横目にチラリと一瞥した後 ポケットから携帯を取り出すと 葵の為に開発した例のアプリを起動するが 画面に現れたマップ上には何も映ってはおらず… ―――…やはり葵がegを押す暇はなかったか…改良が必要だなこりゃ…        しかしこんなこともあろうかと俺のスマホからでもこのegを押すと    “当然”リアルタイムで葵の居場所を俺が知る事の出来る    仕様にしてあるワケなんだが… 信が画面下のegボタンを押す ―――ただ…葵を連れ去ったヤツがプロだとしたら    俺の様に葵のケータイをどっかに投げ捨てている可能性が…    そーなってくるとさっき仁の言ってた車を探す為に    町中の監視カメラに侵入したりして色々と面倒な事に―― 信が祈る気持ちで画面に表示されているマップを見つめる… するとそこにパッと青く光る点が表示され―― 「!!」 ―――しめたっ!どうやら葵を連れ去った奴等はまだ…    葵のスマホを取り上げたりはしていないようだ。 マップ上を点滅する青い点は 今は大通り沿を郊外に向け真っ直ぐに進んでいるようで… 「仁。」 「ッ!?」 ポイッと信は自分のスマホを隣に座る仁に投げて渡す 「その地図上で点滅している青い点が今何処に向かっているかを  随時俺に教えろ。」 「…今は大通りを西に進んでいるようだが…」 「それでいい。変化があったら教えろ。」 「………」 「…なぁ仁…さっきも聞いたが――  なんで警察に、」 「…兄だ。」 「え…」 「お前の弟を連れ去ったのは…長年行方のしれなかった俺の兄だ。」

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