66 / 137
餌。
誠side
―――…運命の悪戯ってのは…本当にあるもんなんだな…
「…おい。あそこにいんのってまさか――」
今回から新しく俺達と一緒に仕事をする事になった新人が
パン屋の前で何やら長身の男性と話をしている一人のやはり長身の少年を指さし
俺もその方向に視線を向ける…
すると偶然にも俺が今手元に持っていた懸賞金のビラに印刷されている少年の顔と
髪型こそ違うが…その綺麗な顔立ちは
今パン屋の前で後姿しか見えない長身の男性と話している少年のものと
非常に酷似していて…
「…間違いない。この懸賞金のビラのヤツだ。」
「ラッキィ~!こんな簡単に見つけられるなんて…
さっさと捕まえて金貰おうぜ。」
「…まあ待て。此処は昇竜会のテリトリー…下手な事したら――」
「だ~いじょうぶだってぇ~…
パッと捕まえて、パッと立ち去りゃいいんだしさっ!」
「…それもそうだな。よし、行くぞ。」
俺の声と共に車は再び動き出す。
正直――此処を訪れたのは別の依頼があったからなのだが…
『今、何処かに身を潜めているハズの昇竜会の組長が
自分の実家に戻ってきているらしい…確かめてきてくれ。』…と。
俺達バウンティハンターの一回の報酬は大きいし――
“交渉次第”によっちゃあ更に報酬が増える可能性もあるから
色々とオイシイ仕事なのだが…
それでも懸賞金付きの人探しや、生死を問わない賞金首なんかの情報は
裏の世界でもそうそう出回るもんでもない。
なので俺達バウンティハンターは本業の合間にこうして小遣い稼ぎ程度に
探偵の真似事なんかもやる。
幸い“人を追う”というバウンティハンターとしての経験は
身辺調査などの実際の探偵がやる仕事と非常に相性が良く…
だからこうして今回の依頼である昇竜会組長の動向を探る為に
わざわざ危険を冒してまで昇竜会のお膝元までやって来たわけだが――
そこで偶然にもターゲットを見つける事が出来るなんて運がいい…
俺たちは車がターゲットに近づく前に
それぞれ用意していた黒の覆面を被り――
車がキキッ!と音を立てて停まると同時に勢いよく車から飛び出した。
「ッ!ちょっとやだっ、、離してっ!」
一人が飛び出て早々油断していたターゲットの腕を掴むと
強引に車の中へと引きづり込もうとする…
しかしそれに気づいた残りの二人が一斉にコチラの方を振り向き――
「ッ!?」
ソイツの顔を見た瞬間…
俺はヒュッ…と息を飲みこみ――
呼吸をするのも忘れて思わずその場で棒立ちしてしまう…
―――ッ…なんで…っ、仁が此処に…!
久しぶりに見た弟の顔に
俺は胸がグッと締め付けられる…
しかし仁はそんな俺の心情なんかお構いなしに
ターゲットを助ける為に近づいてきたために
俺はそれを阻むために否応なく仁の前へと立ちはだかる
「…退け。」
「………」
仁が俺に向かって無表情で手を伸ばし――
俺が覚悟を決め…スッと身構えた次の瞬間。
「ぐっ、、」
新人がターゲットといたもう一人を足払いして地面に転ばせたらしく
相手は地面の上で微かな呻 き声を上げながらのたうち――
「ッ!!」
ソレに気を取られた仁の一瞬の隙をつき
俺は急いで車に戻ろうとした…
しかし――
「ッ、待てっ!」
「ッ!?」
仁が車に戻ろうとした俺の覆面を背後から掴み
勢いよく後ろに引っ張った為に俺の覆面は呆気なく脱げ…
「――ッ!お前…」
「…ッ、」
俺は反射的に後ろを向いてしまい――
俺と仁は意図しない…十数年ぶりの気まずい対面を果たす…
そこに俺の後ろから運転手が声を張り上げ――
「ッ何やってるっ!早く戻れっ!!」
「ッ!」
ハッ!となって俺は新人と共の車に乗り込む。
「っ嫌だっ、、助けて信っ…助けて…っ!!」
ターゲットが必死になって外に向かって伸ばしている手を掴み――
俺は後部座席に暴れるターゲットの身体を押さえ込みながら
運転手に向け大声で「出せっ!」と叫ぶと
車は急発進してその場から走り去る。
―――心臓が…止まるかと思った…
俺は久しぶりの仁との再会に変な汗が噴き出し――
未だに身を捩 って暴れるターゲットの両手の親指同士を
手際よく結束バンドで結ぶと
俺は片手で額の汗をぬぐう…
そこに新人が覆面を脱ぎながら
後部座席で上半身を横にした状態で俺に押さえつけられているターゲットの顔を
マジマジと見つめ――
「…それにしてもホントコイツ…綺麗な顔してやがんなぁ~…」
新人の手がスッ…とターゲットの頬に触れる…
「ッやだ…触るなっ!!」
ターゲットは新人の手から逃げる様に顔を逸らして
嫌がる素振りを見せる…
しかしそれがまた酷く新人を興奮させたらしく――
「…堪 んねぇ…」
新人は舌なめずりをし…
まるで獲物を狙う猛獣のような目でターゲットを見つめながら呟く…
「…なぁ…どーせコイツも“交渉”の為に犯 るんだろ…?
だったらもう…今ココで犯っちまってもよくね…?」
新人がポケットに忍ばせていた折り畳みナイフを取り出し…
怯えるターゲットの目の前でパチンッ!と刃をだすと
ターゲットの身体一は瞬ビクンッ!と跳ね…
その瞳を恐怖で見開きながら声もなく固まり――
新人はそんなターゲットの様子にニィ…と満足げな笑みを深めながら
俺に押さえつけられているターゲットの服に手を伸ばし始める。
だが
「…止めとけ。」
「あ?なんで…走ってる車ん中でのレイプとか最高じゃん。
隣を走る車やバイク…
信号で止まった時なんかに何時誰に見られるかも分からない状況の中で
コイツの足肩に抱えながらアナルがん掘 りすんの。
さいっこーに興奮すんだろ…?」
新人は本気で興奮している様子で
股間が微かにテントを張り出しているのが見て取れ…
俺は呆れながら口を開いた。
「…どうせ犯るなら撮影機材が揃ってるアジトに着いてからにしとけ。
今ここでコイツを犯っても一銭の得にもならん。」
「え~……金になんなくても楽しけりゃいいじゃん。」
「…アホか。」
「なぁ…ちょっといいか?」
運転手がルームミラー越しに俺たちの方を見ながら声をかける。
「…ソイツがケータイ持ってないかどうか調べてくれ。
もし万が一携帯の位置情報を頼りに追跡なんかされたらたまらんからな…」
その言葉を聞き
俺は再び暴れ出したターゲットを押さえつけながらポケットを探る…
するとチノパンのポケットにスマホが入っているのを確認し――
「ッダメ…っ、」
ターゲットが携帯を取られまいと起き上がろうとする。
しかし俺は咄嗟にターゲットの口を片手で塞ぐと
そのスマホを誰にも気づかれぬよう
スッと自分の穿くカーゴパンツのポケットにしまう。
「…?」
ターゲットが不思議そうに俺の事を見つめる。
そこに運転手が再びルームミラー越しに尋ねてきて――
「…あったか?」
「…いや。」
「本当に?今時珍しいな…ケータイを持っていないだなんて…
それより町ん中じゃ何処に監視カメラがあるか分からん。
一応窓ガラスにはマジックミラーフィルムを施してあるが――
それでも郊外に出るまではソイツを外から見えないよう隠しとけよ。
間違っても今ここでレイプすんなよ。」
「チッ…は~い。わかりましたぁ~。」
新人はそう言いながら向かいの席にドカッと腰を下ろし――
「…どうしっ、んぅっ?!ン”ン”ッ…ンーンーッ!」
俺は手近にあったダクトテープでターゲットの口を塞ぐ。
―――コイツは仁の知り合い…
そして仁は警察官になったと聞いている…
俺は久しぶりに会った仁の顔を思い出し、少しだけ口元が綻ぶ。
―――お前の事だ…絶対に追ってくるだろう?コイツを助けに…
いや
俺と話しをする為に…
だから――待っててやるよ。コイツのケータイを餌に…
早く来いよ?でないと――
俺はまた逃げるぞ?仁…
ともだちにシェアしよう!