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アジト。

「…そろそろ視認出来る頃なんじゃないのか?」 昇竜会のお膝元である市街地を抜け―― 信の運転する車は青い点を追って途中…バイパスへと入り 更に郊外へと進む道を直進しながらひた走る事30分… 「青い点は?」 「…もうこの車の目と鼻の先のハズなんだが――見えた。アレだ。」 「ッ!」 信の車から間隔を置いて走る車やトラックを挟んだ3台先に 信たちが追っている黒のハイエースらしき影がチラリと見え―― 「…トラックが邪魔でナンバーまでは見えないが――多分アレだろ…  やっと追いついたか…」 信が中央車線ギリギリまで右に寄せていた車を 再びトラックの陰に隠れるようにして中央に戻すと 前を向いたまま隣の助手席に座る仁に声をかける 「…何かプランは?」 「…まずこのまま奴らの後をつけ――アジトを突き止める。」 「…それから?」 「アジトに着いたら外観を確かめたのち  侵入経路の確認と敵の数の把握…」 「…今車の中には葵を含めた5人が居ると言ってたな。」 「ああ…お前の弟を車に連れ込んだヤツと俺の兄…  それとお前が忠とか言っていたヤツを負かしたヤツと運転手…  そしてお前の弟を合わせた計5人だな。」 「アジトには――葵を連れ去ったその4人の他にも居ると?」 「――どうだろうな。  だが聞くところによるとバウンティハンターはその性質上…  裏社会で様々な組織との繋がりを持ち  最近では日本に進出してきたイタリアンマフィアやロシアンマフィア…  おまけに前々から繋がりのあったとされる蛇頭と言った  海外勢力からの依頼なんかもこなしていくうちに  バウンティハンターも組織化し――  個人より団体として行動するようになったと聞いている。  …だから今車に乗っているバウンティハンターが全員とは  考えない方がいいかもな。」 「…そうか…」 ―――やっべ…    俺ヤクザの若頭なのに最近じゃ社長業の方が忙しすぎて    そっち方面の情報が疎かになってたわ…反省…てか―― 「…お前――捜査一課なのに詳しいな。」 「…まあな。  “お前の件も含めて”――それなりに裏社会について調べていたから…」 「…そうかい。――お…?アイツ等どーやらココでバイパスを下りるらしい…」 「気をつけろよ?ここからは大分通行量が減る。」 「…わーってる。…にしてもアイツ等一体何処へ…」 そう言うと信は車の速度を落とし、再び手ごろなトラックの後ろに着くと 葵を乗せたハイエースとの距離を保ちつつ後を追った… ※※※※※※※ 「…倉庫街とはまた…」 ハイエースを追って行き着いた先は海沿いにある倉庫街… 近くには貿易港があり巨大な貨物船などが停泊しているのが見え―― コンテナなどが立ち並ぶ埠頭を抜けた先にあるそこに 葵を乗せた車が入っていくのを離れた場所から見送ると 信たちは暫くの間車の中でゆっくりと動く青い点の動向を伺っていたが―― やがて倉庫街のある一角で青い点が完全に止まったのを確認すると 信は車をコンテナの脇に隠して停め、仁と二人で倉庫街へと侵入する… ―――昇竜会(ウチ)はヤクや武器の取引などは行ってはいないから    倉庫街や埠頭に馴染は薄いが――    こりゃまたいかにも裏社会の人間が好みそうなところに    アジトを構えてやがんな…    夜に来たらバットマンが月を背に空飛んでそう… しかし今は真昼間 二人が広い道の左右に倉庫が佇む人気の無い倉庫街の中を 周りに注意しつつ青い点を頼りに先に進むと、ある一軒の倉庫の前に お目当ての黒のハイエースが停まっているのを見つける それと同時にハイエースの後部座席がガラッと開くのが見え―― 「ッ!!」 ―――葵…っ! 「…降りろ。」 「ッ、ぅっ、」 ドンッ…と背中を男性に後ろか突き飛ばされるようにして 車から降ろされる葵の姿が信の目に飛び込み… 信は思わず葵に駆け寄ろうとする しかし―― 「っ待て!信…アレを見ろ。」 「ッ、」 咄嗟に仁は信の腕の掴み―― 近くの倉庫の陰に信を引きずりながら二人で身を潜めると 二人はそこから再び葵の方を見る… すると倉庫の重い扉が開かれ… 中から三人の男たちと 俯き…憔悴しきった様子の金髪の女性が後ろ手に縛られた状態で姿を現し―― 「やっと帰ってきたか…待ってたぞ。  …ソイツは?」 「…ホラ、この懸賞金の――」 「ああ…あの美少年の…  なるほど…こうして実物を見ると確かに綺麗な顔立ちをしてやがる…  こりゃあ…今から撮影が楽しみだな。    下手したら――このロシア女よりいい()が撮れるんじゃないのか?」 「ッ、」 自分の肩を背後から掴み…笑いながらそういう男性の言葉に 金髪の女性はあからさまに怯えた様子を見せながら 乱れた長い前髪の隙間からチラリと葵の方を見上げ 葵と目が合う 「……ッ、」 その女性の暗く(よど)んだ(みどり)の瞳に計り知れない絶望が見てとれ… 葵はもう…彼女が今までどんな仕打ちを受けていたのかを一目で察し 彼女を見る葵の瞳が悲痛に揺れる… 「ところで――待ってたっていうのは?」 「あ?車だよ。  この女の懸賞金がたった今銀行に振り込まれたのを確認したから  受け渡し先にこの女を連れて行こう思っていたんだが――  如何せん足がつかない車は今のところ  お前たちがさっきまで乗ってたその黒のハイエースしかないからな。  だからお前たちが帰ってくるのを待ってたんだよ。」 「ふ~ん…で、最終幾らまでつり上がった?」 「始まりが300万で最終が1500万。まあまずまずだろう…  ソイツは何処までつり上がるか楽しみだな。  …オラ、乗れ。」 「ッ、」 そう言うと男は金髪の女性を後ろから押し ハイエースの後部座席に一緒に乗り込むと 他の二人もハイエースに乗り込み、車は静かに倉庫街を後にし―― 「…さて…と――  それじゃあ俺たちもコイツの懸賞金の交渉の為に…  早速準備に取り掛かるとしますかぁ!」 「ッ!?うーうっ、んうぅ…っ、」 「あはは!コラコラ暴れない暴れない!  ホラ、さっさと行くぞ?」 そう言うと新人は嫌がる葵を引きずる様にして倉庫の中へと入っていき 残りの三人もそんな二人の後に続いて倉庫の中へと入っていった…

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