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こびりつく。

葵たちを乗せた黒塗りのリムジンが倉庫街を抜け―― そのまま走る事約15分…葵たちの向かいの席に座る久米の携帯が鳴り出し 久米がそれに出る ピッ、 「…もしもし。  …ああ……ああ……分かった。俺達ももうじきソチラに着く。…それじゃあ…」 ピッ、と通話を切ると 久米が神妙な面持ちでその口を開いた 「…たった今――井上からの連絡で…  信の手術が始まったそうだ。」 「ッ!」 ―――信…ッ、 それを聞き… 葵が益々青ざめながら両手をギュッと膝の上で握りしめ―― 信の無事を祈る気持ちでその瞳を静かに閉じる… ―――大丈夫……信はきっと大丈夫だから…っ、 握っている葵の手は知らずに震え―― 車内は重い空気に包まれる… そんな中、葵の隣の席に座っていた仁が険しい表情のまま久米に尋ねた 「…ところで――貴方は何故あの倉庫に…?」 「ん?…信からメールをもらってな。」 「メール?」 『…信?』 『んっ!?ああ…スマン…ちょっと葵の居場所を確認してた。』 ―――…あの時か… 倉庫に侵入する前… 信の妙な挙動を思い出し 仁は納得すると同時に再び難しい顔のまま口を真一文字に結ぶ… そこに窓の外を流れる景色を眺めていた久米が 葵たちに向かって口を開いた 「…どうやら…着いたようだな。」 「…?」 俯いていた葵が顔を上げ、窓の外に視線を向ける… すると車は一軒の白い… いわゆる白亜の豪邸と呼ばれるような洋館のエントランス前に停車し 葵はてっきり病院に行くのだとばかり思っていただけに混乱する… 「え…あの……此処って…」 「…“病院”だよ。  “我々専用”のね。」 「え……え…?」 「………」 葵は混乱から抜け出せずに車の中から辺りを見回し… もうすでに此処がどんな場所なのかの察しがついている仁は 無言でその洋館に目を向けていると 洋館の立派な正面玄関の扉が開かれ… 中から姿を現した井上がリムジンに駆け寄り、後部座席のドアを開けると リムジンから降り立った久米が 玄関に向かって歩きながら井上に話しかける 「…信の容体は?」 「…刃渡り約20cm程の刃物による左側腹部への刺し傷…  幸い刃は急所を逸れたようですが――まだどうなるかまでは…」 「…そうか…」 井上からの報告に久米が険しい表情のまま玄関先で佇む… そこに素足のままのリムジンから降りた葵が久米たちの元に駆け寄り 心配そうな顔で久米に尋ねた 「っ…信は…大丈夫……ですよね…?」 長羽織の前合わせ部分を震える手でキツク握りしめ… 不安で揺れる黒い瞳には 久米の姿がハッキリと映り込み―― 久米はそんな自分の姿を映す葵の瞳を見つめ返しながら 極力葵を不安にさせないためにそっとその肩に手を置き、微笑むと… 落ち着いた声色で葵に応える 「大丈夫だとも…信は今までにも数々の修羅場を経験してきた男だ…  この程度の怪我じゃ死にはしないさ。  それより井上…」 「はい。」 「…葵君を連れて――風呂場に案内してやってはくれないか?」 「え…」 「分かりました。」 「ちょっ…ちょっと待って…なんで…」 「その恰好…」 「…?」 久米が痛まし気な視線で葵の姿を見つめ―― 葵もつられて自分の姿を見てみると 急いで信の後を追っかけてきた為に 長羽織は羽織ってはいるものの下は素っ裸な上に―― 両手や太腿の部分には乾いた信の血がこびりついていて… 「ッ、」 葵は改めて自分の手足に付いた信の血に青ざめ… カタカタと震えだす… 「…井上。」 「…はい。さぁ…葵さん…コチラへ…」 「………」 井上は放心状態の葵の背中を支えながら屋敷の中へと入っていき―― 久米はそんな二人を見届けると、仁の方へと振り返り… 深刻な顔をして佇む仁に声をかける 「…さて…それでは我々も中に入るとするか。」 「………」 「真壁君?」 「信は――」 「…?」 「信は真っ直ぐなヤツなんです。」 「………」 唐突に仁の口から出た言葉に 久米の表情が微かに揺らぐ… 「本来なら…修羅場何てものとは無縁なヤツなんです。  今回のような事件とも…」 「………」 仁はその表情を悲痛に歪ませながら話を続ける… 「…貴方の言う  “信の経験してきた数々の修羅場”とやらがどんなものだったのかは  俺が知る由もありませんが――  もし貴方のせいでその数々の修羅場とやらを信が経験するハメになり…  そしてこれから先も経験することになるというのなら…  例えそれが信が選んだ道だとしても――  俺は貴方を許さない。」 「………」 仁はそれだけ言うと眉間に皺を寄せたまま久米の横を通り過ぎて行き―― ―――なるほど……流石彼の息子と言ったところか…同じ目をしている… 久米は仁の背中に寂しげな視線を送ると 仁の後に続いて屋敷の中へと入っていった…

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