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重ねて、黙る。

病室で葵と仁が信の寝顔を見つめながら20分程が経った頃… 仁が不意に何処かに電話をかけるために席を外し―― 葵はそれを気にする事なく点滴の刺さっている信の手を握りしめ… ただひたすらに信が早く目を覚ますことを祈りながら信の寝顔を見つめていると 葵が両手で握りしめている信の手がピクッ…と(かす)かに動き―― 「ッ!………のぼる…?」 葵が恐る恐る信に声をかける… すると閉じられていた信の(まぶた)(かす)かに震えながら薄っすらと開いていき… 「ぅっ………ここは……?」 「~~~ッ、信…っ!」 葵は咄嗟に信を抱きしめたいのをグッ…と堪え―― 握っている信の手を更に強く握りしめながらベッドに身を乗り出し… 潤んだ瞳で信の顔を見つめ―― 信がぼんやりとした様子で葵の方に視線を向けると まだ麻酔が抜けきっていないのか…やはりぼんやりとした様子でその口を開いた 「………あおい…?」 「っうん…そうだよっ、俺だよ信…っ!  良かった……信…気がついた…!」 葵は握っている信の手に頬をすり寄せ… ホッとしたような笑みを見せながらも その瞳からは大粒の涙がポロポロと(こぼ)れ落ち… 葵は信の顔を見つめたまま話を続ける… 「もう…っ!すっごく心配したんだからねっ?!  このまま信が目を覚まさなかったら俺…どうしようって――、ッ、」 しかしそこまで口にした途端… 葵の表情は見る見るうちに悲痛に歪み―― 信の手を握ったまま葵は(うつむ)いてしまう… 「…葵…?」 「ッ…の、ぼる…」 「………ん?」 「…ごめん…っ、」 「…何だよ急に…」 俯いたまま… その長い前髪で表情を隠したまま突然謝罪の言葉を口にした葵に信は戸惑う… 「っだって……うぅっ、、だってぇ…っ!」 「葵…」 「だって信…、ッ、…俺のせいで怪我を…ッ、」 「……」 そこまで振り絞る様にして呟くと 葵はとうとう肩を震わせながら泣き出してしまい… 信はそんな葵の様子に困ったような笑みを浮かべ… 「やれやれ…」と呟きながら ちょっと辛そうにベッドに片肘をついて身体を起こすと 葵に握られていない方の手で俯いている葵の頭をそっと撫で… 葵の様子を気遣いながら口を開いた 「…俺が怪我をしたのは…お前のせいじゃない。」 「ッ!だけど…っ、」 葵は思わずバッと顔を上げ――信の方を見ると 信は微笑みながら葵の顔を見つめ返していて… 「だけどじゃない。…俺が怪我をしたのはあくまで俺のせいだ…  だからもう…気にするな。な?」 「でも…っ!信あの時俺に“来るな”って言ったのに…っ、  なのに俺…、ッ、ソレを無視して…、うぅぅぅ…、」 「葵…」 「グスッ、だから…、ッ、信が怪我したのはやっぱり俺の―――」 葵が泣きながら真っ直ぐに信の事を見つめ… 次の言葉を信に言おうとした瞬間 「もう黙れ。」 「!?」 信が突然葵の後頭部をグイッと強く引き寄せ… 驚いて固まる葵の顔を自分の方に引き寄せながら、信自身の顔も葵に近づけると そのまま葵の唇に自分の唇を重ね―― 「………」 「………」 長い沈黙の後… 信の唇はゆっくりと葵の唇から離れ… 信がニッと悪戯っぽい笑みを浮かべると 未だ放心状態の様に固まる葵の顔を見つめながらその口を開いた 「………黙ったな。」 「………………ぁ。」 葵の顔は見る見るうちに真っ赤になり… 葵の瞳はさっきとは別の意味で涙で潤む 「~~~ッずるい…、ッ、…今のズルイッ!!」 「なんで…別にズルくないだろ?  何時までもウジウジといじけて黙んないお前が悪いんだし…」 「ッ、そんな事ないもんっ!だいたい信は――」 「葵。」 「ッなに…」 「黙んないと――  もう一回その唇……塞ぐぞ?」 「ッ!!」 信の言葉に… 葵は顔を真っ赤にしたまま押し黙り―― ―――流石にもう…だま、 「――して…」 「ん…?」 「ッもう一回キス…っ、………して…」 「………」 葵の言葉に… 今度は信が押し黙り―― 「っキスしてくんないと……俺…っ、またさわ――ふっ…ン…」 「………」 信の唇が再び葵の唇を塞ぐと 今度は触れるだけじゃない微かな水音と一緒に 重なり合う二人の息遣いが室内に響いた…

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