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納品リスト。

途中で仁を“病院”に置いてきてしまった事に気付いた久米は 慌てて運転手に病院に戻るよう指示を出し、病院へと引き返すが―― 仁は既にタクシーで病院を後にしたらしく… 久米は改めてリムジンで自宅へと向かう ―――…しかし…今日は本当に散々だったな… 今では大分落ち着きを取り戻し…時折稲光(いなびかり)の走る窓の外を 不安げな様子で見つめている葵の方を久米がチラリと見やる ―――信が刺された時は一時はどうなる事かと思っていたが――    最上(アイツ)の話では予想よりも大分早くに退院出来そうだというし…    とりあえずは大事にならなくて良かった… 久米が葵から視線を外し、「ふぅ…」と胸を撫でおろす様に小さく息を吐くと 座席の背もたれに寄りかかりながら前を見据えた ―――信が刺されたことは内密にしておくよう…井上と河野以外にも    今日俺と共に倉庫に乗り込んだ他の組員達にも伝えてはいるが――    にしても昇竜会の組長と若頭が日にちは違えど揃って刺されるとか…    一度お祓いでも受けた方がいいんじゃねーかな。 「ククッ…」 「…?」 可笑しくてつい笑ってしまった久米を、隣に座る葵が怪訝そうに見やり… 久米がそんな葵の視線にハッとなって咳ばらいをすると 「ッ…すまない。」と言いながら再び視線を前の方に移す ―――それにしても…俺たちが病院に向かっている間…    他の組員達にはあのバウンティハンターの倉庫を探らせたワケだが――    何か有益な情報でも見つかればいいんだが… フロントガラスを叩きつける雨は激しさを増し… ワイパーが弾いても弾いても雨は滝の様にフロントガラスを流れ落ちる… ―――特に俺としてはこの間から井上に探らせている    “組合”に関する何らかの情報が手に入ればいう事はないんだがな…    なんせバウンティハンターは    “組合”から仕事を仲介してもらっていると聞く。    だからあの倉庫を探るのはハズレではないと思うんだが…       まあなんにせよ…今は報告待ちか… 久米がその表情を険しくしながら窓の外を睨みつけた丁度その時… 雨が叩きつける窓の外を激しい稲妻の一閃が空を駆け巡った… ※※※※※※※ 「お帰りなさいませ旦那様。」 「ッ、葵ーーーっ!!!」 「わっ、」 久米と葵が玄関の戸を(くぐ)ると 五十鈴(いすず)と共に出迎えた(ただし)が勢いよく葵に駆け寄り ガバッ!と葵の身体を抱きしめた 「ちょっ…ちょっと忠…っ!離しっ、」 「葵…、ッ、良かった無事で…っ!  ハッ!そうだ怪我は…っ、どっか怪我はしてないかっ?!」 忠が葵の肩を掴んだままバッ、と身体を離すと 葵の足のつま先から頭のてっぺんまで何度も何度も確かめる様に眺めまわす 「ッない…、怪我はしてないよ…っ!そんな事よりも信が…、ッ、」 「………聞いてる。心配だよな…」 「ッ…うん…」 葵は今にも泣きそうな顔をして俯き… 忠の方も眉を顰めながら黙り込む… そんな中… 如何にも泣きはらしたような顔をした智美が近くの部屋から姿を現し… 濡れたハンカチで目元を押さえ…鼻をグズグズと鳴らしながら久米に声をかけた 「…父さん……信は…?」 「…智美…なに、信の事なら心配いらない。手術も無事に済み――  一週間以内には退院出来るだろうとの事だ。」 「本当っ?!良かった……グスッ…本当に良かったぁ~…、」 「おいおい…」 智美はその顔をクシャリと歪ませ…思わず久米に抱きつくと 久米は苦笑を浮かべながらそんな智美の頭を優しく撫でる… そこに久米の懐にしまってある携帯が突然鳴り出し―― 「智美…すまないが電話に出ないと…」 「グスッ……わ”がった…ズズッ…、」 その普段勝ち気で中性的な美しさを誇る顔は今は見る影もなく… 智美は鼻の頭を真っ赤にしながら久米から離れ―― 久米は「フッ…」と苦笑を浮かべたまま電話に出た ピッ、 「…井上…どうした?」 『親父…今河野と他の組員数人とで  例の倉庫から持ち帰ったデータや資料を漁っているところなんですが…』 「!“組合”に関する何か出たのか?!」 『…いえ…ソレはまだ…  しかし一つ気になるものが…』 「…気になるもの…?」 『ええ…』 受話口の向こう側から聞こえてくる井上の声がワントーン落ち… それを聞いた久米の眉間にも皺が寄る… 『恐らくこれは――  あのバウンティハンター達の“顧客名簿”だと思われるのですが…』 「…顧客名簿?奴等賞金稼ぎだけではなく…  特定の人物からの依頼もこなしていたと?」 『…そのようで…そしてこの名簿の中に  “M氏”と呼ばれる人物の名前があるのですが…  そのM氏からバウンティハンターへの依頼をまとめた  “納品リスト”なるものが名簿と一緒に出てきまして…』 「納品リスト…?」 『ええ…しかもその納品リスト…  どうやら“人間”を対象としていたものらしく…  何名かの名前がこのリストに(しる)されていたのですが――  その中に…三年前に昇竜会(ウチ)を破門され…その後行方知れずとなった    加納 輝彦(かのうてるひこ)の名前を見つけまして…』 「ッ?!」 その名前を聞いた途端…久米は目を見開き―― 言葉を失った…

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