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守る為に。
信side
―――葵にはああ言ったが――
『………分かった。
“お前が話す気になるまで待つ”って約束したしな。
それまで…お前を信じて待つよ。』
―――それでもいい加減…
“父親”に関してだけは調べておく必要が出てきたな…
葵は…嫌がるだろうが…
俺は自分の隣でスヤスヤと眠る葵の垂れた前髪を軽く手で梳いてやりながら
葵が連れ去られた時の事を思い出す。
―――あの時は誠さんの気まぐれで葵を助け出すことが出来たが…
もしあの時誠さんが葵のスマホを捨てていたら
救出にはかなりの時間がかかっていただろうし…
下手したら……見つけられずに葵は――
「ッ、」
俺は今しがた脳裏を過ったその“もしも”にゾッとし…
葵の髪を梳いていた手がピタッ…と止まってしまう。
―――っこのままでは駄目だ…、
今回は誠さんの気まぐれに助けられたが――
次に葵の父親が何かしてきた時に…
今回のような後手に回るような対応をしてたんじゃ
何時か本当に葵を失いかねない…
そうならない為にも…
俺は葵の父親について知っておく必要がある。
葵を守る為に…
再び葵の顔にかかった前髪を手で払うと
俺は軽く葵の額に唇を落とす。
―――俺にはもう……葵が傍にいない生活なんて考えられない…
それだけ葵の存在はもう…俺の中ではかけがえのない存在になっている…
そんなお前を他の誰に奪われない為にも…
俺がしっかりと守ってやらないと…
椿さんの二の舞にはしない為に…っ、
葵の寝顔を眺めながら…
俺の脳裏に最後に見た椿さんの寂しげな…泣きそうな顔がチラつき…
俺は何処にも持っていけない憤りにギリッ…と歯噛みしながら眉を顰めた。
―――そうだ……俺はもう――誰かを守れずに失うのは御免だ…
椿さんの時は……俺が煮え切らないばかりに守る事が出来なかったが…
葵は……葵だけは必ず…!
俺はもう一度……祈るような気持ちを込めて葵の額に口づける…
―――守ってみせる…
今度こそ……必ずだ。
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