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電話の後の気持ち。

『えっ…本当にっ?!』 「ああ…明日にでも退院出来るらしい。」 時刻は19時を少し過ぎ… 誠との電話の後…信は暫く考え込んでいたが―― 考えていても(らち)が明かない事に気がついた信は 改めて連絡先を開き…今度は間違える事無く久米の実家へと電話をかけると 最初に出た五十鈴から葵に代わってもらい 電話に出た葵に明日退院できるかもと伝える すると葵はそれはもう…電話越しでも分かるくらい明るい声で大喜びし… 『良かった…嬉しい…っ!  それじゃあ……明日からまた――俺は信と一緒に暮らせるんだね?!』 「ああ……まだ正式に決まったわけじゃないが――  それでもあの人がそう言うんだったらほぼ間違いないだろう…  でだ……葵にちょっと頼みがあるんだが――」 『なになに?』 見る事は出来ないが―― 葵が嬉しそうに受話口に耳を傾けている姿が容易に想像がつき… 信の表情も自ずと綻ぶ… 「明日――俺達の住むマンションから俺の服を持ってきてはくれないか?  何でもいいから…    それと――  明日の夜は海の見えるレストランでディナーにしよう。  俺の退院祝いの意味も込めて…」 『ッ!……うんっ!』 葵の嬉しそうな反応に 信もフッ…と笑みを深める… そこに葵がウキウキとした様子で信に話しかけ――   『じゃあ明日はなるべく早くに信の服持ってそっちに行くよ!』 「ああ頼む。それと葵…」 『…ん?なぁに…?』 「――色々心配かけて……悪かったな。」 入院してからのこの三日間… 信は葵に言いたかった言葉を口にする 『!そんな事……っ、  …そりゃあ――心配もしたし心細かったけど……  でも…、ッ、信が無事なら俺はそれで――』 感極まった様子で葵が言葉に詰まりながらも、懸命に言葉を紡ぎ… 信はそんな葵の様子に目を細を細めながら口を開いた… 「俺も――あの時お前が無事で本当に良かった…」 『ッ、のぼる…っ、』 「おっと――これ以上は辛気臭くなっちまうな。明日退院なのに…  さて…とそれじゃあ――名残惜しいが明日予約する店探さないといけないから…  そろそろ切るな。」 『……うん……明日のディナー…楽しみにしてるね!』 「ああ……期待しててくれ。それじゃあ…」 プツッ…と通話は切れ… 信は暫くの間スマホの画面を見つめる ―――このもどかしいやり取りも今日で終わりか… 信がハァ…と溜息をつく ―――ホント……どーしちまったんだろ~なぁ~…俺……    葵と出会う前は――    こんな寂しがり屋じゃなかったのに… 葵との面会の後や通話の後に 必ずと言っていいほど胸に去来する寂寥感(せきりょうかん)に信は苦笑し―― 黒くなったスマホ画面に写り込む寂しく微笑む自分の顔を見て 信は思わず「キモ…」と呟きながら画面を触って再びホーム画面を呼び出す ―――今までは椿さん以外……    特に誰かに会えなくて寂しいだとか感じた事もなかったのに…        今じゃ葵に会えない時間がこんなにももどかしく…    寂しく感じる日が来ようとは夢にも思わなんだ…    どんだけ葵の事が気になってんだよ俺は… 信は思わずフッと吹き出し… 検索画面にズラッと並ぶレストランの名前を見つめながら ふとある事を思い出す… ―――そーいやぁ……義人(よしと)の奴が去年の夏――    海沿いの一等地に例のフレンチの店の二号店を出してたよな…    ダメもとで――頼んでみるか。 そう思い立つと信は早速連絡先を開き―― 義人の名前をタップした

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